知りたい、歩きたい! 美しい「日本の町並み」

 GW前に東北旅行へ行った。その際に旅程の参考にするため、本書を購入。中でも目に付いたのが「出雲崎」。期待通りの妻入りの町並みを見学した。しかし、出雲崎に行って初めてわかったのは、建物自体は意外に新しい、ということ。本書ではそこまでは書かれていなかった。
 著者「『ニッポン再発見』倶楽部」というのがまず怪しい。巻末の著者紹介に「独自の切り口・視点には定評がある」と書かれているが、さっぱりそんな感じはない。「主な参考文献」に多くの書籍が挙げられた最後に「*その他、官公庁・自治体など多数のホームページを参考にさせていただきました」と書かれているが、ほとんどこれらの書物やHPから引用して書き連ねたのではないかと思うほど。そもそも文庫本紙面の半分以上は写真で占められ、1ヶ所につき見開き1ページ、または片面1ページで紹介するのだから、書けることは限られている。言ってみれば、私のこのブログのよう。いや、私の方がもっと驚きなどの感情が表現されているのではないかと思うが。
 取り上げられる町並みは79地区。函館や尾道など、有名な街もあれば、伊根や外泊など、あまり知られていない町もある。私が知らなかったのもいくつか。その点では役に立つ。今回、本書に掲載された町並みのうち、出雲崎と喜多方、角館、東山ひがしを訪れた。大森銀山や黒江、渡名喜島、秋月、筑後吉井、佐原など、ぜひ行ってみたい町。大内宿、平福、栃木などもう一度行きたい町も多い。もちろん、今井町美濃市、足助、飛騨古川など、忘れていませんか、と言いたい町もあるけれど。
 本書を見ながら、また旅に出たくなった。次はどこへ行こうか。

○「水の都」といえば、ヴェネツィアが有名だが、日本にも海に浮かぶ町が存在する。日本海に突き出た丹後半島北端の港町・伊根である。伊根湾岸の海上には、古い家がいくつも連続して建っているのだ。これらの家々は「舟屋」といい、主として昭和初期までに建てられた。一階は船を収納する舟揚げ場兼作業場、二階は居住空間になっており、舟屋の先は海底20メートル以上と急に深くなるため、湾から直接船を引き入れることができる。(P34)
○ここ三国だけでしか見られない、「かぐら建て」の民家も見逃せない。/かぐら建てとは、妻入りの母屋を道から少し下げて建て、その正面に平入りの屋根を差し掛ける形式。・・・母屋を妻入りにしたのは、海から吹く強風を防ぐための知恵で、町並みを整えるために、通りの面を平入りの造りにしたものと考えられる。(P38)
愛媛県西南端、南は黒潮の太平洋に面し、西は豊後水道を臨む外泊。この集落は“石造りの要塞”のように見える。・・・石垣は最高7メートルにも及ぶ。なぜそれほど高い石垣が築かれたのかというと、家を強風から守るためである。また、石垣に「遠見の窓」というくぼみを設け、そこから漁をする海を見渡した。/石垣とともに生きてきた、「石垣の里」と呼ぶにふさわしい集落だ。(P43)
○江戸時代、佐賀藩は有田焼の中心地である有田皿山を内山と外山に区分。内山地区では有田焼特有の赤絵付けなどの技術漏洩を防ぐため、内山地区を一つの窯元のようにして町づくりを進めた。・・・最も特徴的な建造物としては、耐火煉瓦(トンバイ)や陶片などを赤土で塗り固めた「トンバイ塀」があげられる。この頑丈な塀は仕事場や屋敷を囲み、技法が漏れないように工夫したのだ。(P208)
○黒江塗400年の伝統に支えられた黒江の町並みは、じつにユニーク。/道路に対して斜めに家が建てられているため、上空から町全体を眺めると、まるで鋸の歯のようにギザギザした形に見えるのである。/道路に面した部分にできている三角形の空き地は、もともと漆器の原料や製品などの置き場だった場所で、食と住が一緒だった頃の名残といえる(いまは植木などを置いている)。