おたがいさま運動の結実 「南生協病院」と「よってって横丁」

 南医療生協の「南生協病院」とその隣に昨年4月にオープンした「よってって横丁」を見学してきた。2010年に開設された「南生協病院」は翌年度の第19回愛知まちなみ建築賞を受賞しており、地域に開放された病院として高い評価を受けている。今回隣に、有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅にデイケアや診療所、商業施設などが併設された「よってって横丁」がオープンした。「南生協病院」も初めて見学する。両施設とも楽しみに見学会に参加した。
 最初、南生協病院の会議室で生協非常勤理事の杉浦さんから南医療生協の概況やこれまでの活動などについて話を伺う。南医療生協が取り組んでいる活動では、東海市に開設した「生協のんびり村」を見学したことがある。そちらの報告「『生協のんびり村』の暮らしと活動」でも南医療生協の概略は紹介をしたが、その後さらに規模は拡大し、現時点で組合員数は78744人、出資金総額は30億1600万円に達している。
 南医療生協が掲げる基本理念は「みんなちがって、みんないい ひとりひとりのいのち輝くまちづくり」。その最も特徴的な活動が「班会」だ。2月時点で1156の班があり、健康づくり体操やお茶会・食事会、文化活動などの地域だんらんの活動を行っている。これまでにも地域をチャリンコ(自転車)で回って空き家を探し、「グループホームなも」を開設したり、南生協病院の移転に伴い、従前地区の組合員が1億円増資を実現させて外来病院の拡大・リニューアルを達成するなど、組合員主体による協同の取組は目を見張る。南生協病院の新築・移転にあたっても、建設資金100億円に対して2割の出資金を集める目標を掲げ、それを達成している。こうした取組が出資総額30億円につながっている。
 南医療生協が繰り広げる「おたがいさま運動」を象徴する活動として「おたがいさまシート」がある。これは一人ひとりの困ったことを書いて、これを他の組合員と共有することで、「おたがいさま」の精神の中で、地域の困りごとを解決していく仕組み。基本ボランティアなので、利用料金は発生せず、エアコンの修理や移動販売の実施などを実現してきている。
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 当日はこの後、まず「南生協病院」、そして「よってって横丁」の順番で見学をさせてもらった。JR南大高駅は区画整理により最近、急速に市街地整備が進展している地域だが、駅を降りると正面にイオンの大きな看板が見え、右側に「よってって横丁」がある。1階の「よってって通り」を抜けると南生協病院の入り口が見える。土曜日の13時集合だったが、1階ホールは学生たちで占拠され、また南北双方のホール前の広場にはテントがいくつも張られて朝市が開催されていた。いったいどこが病院なんだろうと思いつつ、指定された会議室へ向かうと、上からピンポン球を追いかける子供たちが駆け下りてくる。建物はホールを挟んで病院機能が集積した東棟と生協機能がある西棟に分かれている。会議室は西棟の3階にあるのだが、その手前のロビーは卓球台が置かれ、地域に開放されていた。ちなみに2階にはフィットネスクラブが入り、こちらにも多くの人が詰めかけ汗を流している。
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 1階のホールはその日は名古屋大学の音楽サークルによる演奏会が開かれていたようで、説明を聞き終えて1階に降りてきたときにはもう撤収作業が終わっていた。ホールに面して東側に病院の総合案内、そして各診療科へつながっている。病院の入り口がこんなに賑やかなんて、最初からびっくりしてしまった。病棟に入るとさすがに一般の病院のように静かな雰囲気だが、串刺し状に各診療科が並び、患者の待合スペースと医療関係者の裏スペースが完全に分離されているのが動線状の特長だ。病院自体は310床もある大きな総合病院で、7階には緩和ケア病棟も備えている。屋上庭園もきれいに手入れされ、また名古屋の都心方向を眺める眺望も最高だ。
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 また2階には「みなしる文庫」という名の図書室があったり、1階には名大生協などと連携してまるでコンビニのような品揃えの売店があったりして全く病院らしくない。さらに北側広場に面してベーカリーやレストランも開業しており、隣接して保育園もある。
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 南大高駅方面に通りを一つ隔てて建設されたのが「よってって横丁」だ。この土地は名古屋市有地で、公有地活用の募集に応募し最優秀事業者として選定されたもの。名古屋市から定期借地で借り受けている。一角に駐輪場を設置することが条件で1階西側に整備されている。1階は駅前広場に面してバーやカフェなどの飲食店が並ぶ。入口を入って病院へ抜けるホールは「よってって通り」と名付けられ、デイケアセンターや小規模多機能ホーム、診療所が入っている。また2階にはメンタルクリニックや歯科医、針灸院とレストランが入る。1階で興味深いのが自習室。「さっちゃんとみんなの自習室」と名付けられ、生協病院の小児科医だった女性が急逝した後、彼女の名前を付けて整備された。南医療生協が関係を持つ豊根村産の杉材を内装にふんだんに使い、地域の人たちが朝7時から夜8時まで自由に使える部屋として開放している。また2階ロビーにもイスとテーブルが数脚並べられているが、学生たちがノートや参考書を広げ、勉強している姿が見られた。
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 3階と4階は有料老人ホーム、5~8階はサービス付き高齢者向け住宅となっている。各階・各部屋は、「おたがいさまの家 ○丁目○番地」と名付けられ、案内看板が掲示されている。介護等の費用も含めると1室20万円以上するというのはやや高いが、この立地と部屋面積では仕方ないだろう。まだいくらか空室もあるようだ。
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 今回初めて南医療生協の病院と施設を見学し、とにかくその開放的なことに驚いた。まさに南医療生協が繰り広げる「おたがいさま運動」の精神がそのまま表現されたものであり、またしっかりと地域に根付いている。出資金に対して配当は全くおこなっていないそうだが、それで30億円を超える出資金が集まっているのだからすごい。現在さらに空き家を活用したグループホームづくりなどの活動も進めている。またこれからも何度か南医療生協の活動成果を見学する機会がありそうだ。楽しみにしたい。