最近のリフォーム産業の状況について勉強中

 名城大学の高井先生からお誘いいただいて、リフォーム産業に関する研究会に参加している。昨年10月の初回の会合は大学の先生やリフォームを手掛けている設計者、工務店、それに行政担当者などが集まり、それぞれの立場から最近の状況を伺った。最近はリフォームと言わず、リノベーションと言うことが多い。リフォームは従前の間取りやデザインを尊重しつつ、必要に応じて改修を加えるのに対して、リノベーションは用途変更も含み、構造躯体を残して他は全て再整備というイメージ。業界ではリノベーション住宅推進協議会も設立され、検査・報告・保証・住宅履歴などをきちんと行う「適合リノベーション住宅」という取組も行われている。まずは実際のリフォーム事例の見学から始めましょうということで、先月・今月と戸建てリフォーム・マンションリフォームの実例を見学に行ってきた。
 いつもならこのブログで写真を多く披露するのだが、今回は個人宅ということもあり、画像はなし。それぞれリフォーム上の面白い工夫やセンスのいいデザインなどを堪能したが、この研究会での私の関心は最近のリフォーム産業の実態と住まい手のリフォームに対する考え方等について知りたいといったあたりにある。
 先月訪れた戸建てリフォーム事例は、建築家が住宅リフォームに関わった事例。施主は名古屋の好立地の都心で賃貸集合住宅に住んでいたが、ご主人の親から同居の誘いがあり、離れをリフォームして隣居形態で住むことに奥さんも同意。思い切ったリフォームを行うことになった。
 完成した住宅は以前の面影から一新。もともとは母屋の附属棟として、車庫・居室3室・トイレ洗面所があったが、躯体を残して間取りからすべてリノベーションした。2階に夫婦寝室と子供部屋、1階はリビング・キッチン・ダイニングの1室で構成され、完全に別世帯として生活が完結している。室内は2階の小屋梁や1階の梁を現しのまま見せて、いいアクセントになっている。またキッチンもオリジナルで設計。特に2階部分は、親と姉弟が互いの気配を感じながらうまく独立して生活できるようよく工夫されている。
 建築家との出会いはご主人の仕事関係の付き合いから。初めて設計事務所を訪れたときはドキドキしたと言っていたが、女性建築家ということもあり奥さんとすっかり意気投合。建築家の過去の作品も見せてもらい、安心して任せられる関係になった。建築家が設計を担当するケースはこうしたいわゆる口コミが多いようだ。施工会社も建築家が普段からお付き合いのある業者にお願いしたそうだ。
 名古屋圏では両親が息子夫婦との同居を望むことが未だによくある。この住宅では外部に木製デッキを設けてあり、母屋に住むお父さんがつくった野菜がそっと置いてあったり、お母さんが外から声をかけたりして、いい緩衝地帯となっている。収納が少ない気がしたので荷物は母屋に置いてあるのかと聞いてみたが、そんなこともないそうで、しっかりと別生活をしつつ、お互い気配は感じながらいい関係で生活している。
 一方、今月訪れたのはマンション・リノベーションの事例。名古屋地区で東邦ガスの指定工事店として設備機器を扱う会社からリフォーム工事全般を行うように発展してきた株式会社桶庄がリノベーション用のショールームとして利用している名東区内のマンションを見学した。
 地下鉄駅から徒歩3分の好立地に位置する築34年のマンションで、分譲当時は5000~5500万円程度はしたと言われるが、これを1480万円で購入。工事費等に1100万円を投じ、2600万円程度で売りたいと考えているが、現在はリノベーションを検討している方向けのセミナー会場やリノベーションの実施事例としてのショールームとして利用している。
 かなり大胆に改修しており、躯体を残して内装は完全に撤去。浴室やキッチンなどの位置も変更し、従前とはまったく異なる間取りとなっている。桶庄さんのリフォーム事業部であるモアリビングのHPにはリフォームセミナーや見学会、バス旅行などのイベント案内がされているが、実際にこうしたイベントを通じて仕事を依頼される方が多いとのことだった。加えてこのショールームではあえて多様な仕上げを採用することで、モルタル面のクラック発生など施工上のトラブルの可能性なども理解できるようにしている。
 セミナー用のスライドを見せていただいたが、20年以上経過したマンションはそれ以上の資産価値低下が少ないといった興味深い内容も含まれていた。地下鉄駅から徒歩10分圏内がマンション・リノベーションの最低の条件だそうだが、そうした立地であれば、資産低下もある程度で収まるため、自分らしいこだわりのあるリノベーションへの人気は高いと言う。特に若い人はなるべくシンプルで簡易な改修のままとし、入居後にニトリ等で気に入った家具を持ち込むといった例が多いそうだ。また戸建ての場合には、祖父母が住んでいた住宅を孫世帯がリノベーションするケースが少なくないと言う。
 親がある程度の金銭的援助をするケースも多く、その場合には親も一緒に納得をしてもらうことを心がけている。そのためにもこうしたショールームは不可欠だと言う。マンション・リノベーションを行う若い世帯の親は新築戸建て住宅で生活し、そろそろリフォームも考え始めている年代。子供世帯のリノベーションから始まって親世帯のリフォーム工事も受注するという展開もあるのではないだろうか。
 また、マンション・リノベーションで重要なのが管理組合。改修工事にあたっては事前に管理組合と話をして、どこまでの工事なら許されるのかを確認するが、組合によってかなり差があるそうだ。見学したマンションの管理組合はかなり融通の効く方で、ベランダの床や手すり壁の改修なども行っている。
 これまで見学したのは以上の2件。昨年はURのMUJIとコラボした賃貸マンションリフォームの見学もしたが、今後リノベーションは住宅業界にとっての大きな柱になっていくと思われる。少なくとも若い世帯、いわゆる一次取得世帯の選択肢としてリノベーションは確実にその一つになりつつあるようだ。これからも引き続き住宅リフォームの動向に注目していきたい。