住宅そのものではなく、住む機能を評価する・維持する・活用する。

 既存住宅ストックをテーマに3人の方から話を聞いた。一人は名古屋学院大学の上山准教授。先生は経済学の立場から家計への住宅資産の影響等について研究をしている。日本は欧米に比べ、既存住宅流通比率が低く、住宅市場は圧倒的に新築住宅が中心となっている。その要因として、家屋評価(木造)が20年でゼロとなるように設定されていること、メンテナンスやリフォームが家屋評価に反映されないことなどの供給側の要因とともに、住宅金融公庫時代の新築融資優遇や生活スタイルの変化・住宅技術の進歩などにより、需要側にも新築志向が根強くあることが挙げられる。
 国交省では中古住宅流通の割合を10年間で倍増させる目標を掲げ、様々な施策を提言しているが、どこまで効果があるかは不明。そうした中で上山先生が研究対象としているのがリバースモーゲージ。だが、中古住宅市場の規模が小さく担保物件の売却が保証されない日本では、融資リスクが担保価値を上回るリスクが大きく、普及が進まない。(社)移住・住み替え支援機構など注目される事例も出始めているが、今後リバースモーゲージが普及していくためにも、既存住宅市場の拡大は不可欠、というのが先生の結論だ。
 続いて話をしていただいたのは、(NPO法人)中部マンション管理組合協議会の方々。分譲マンション管理組合が集まった協議会で、既に30年を超える活動実績がある。ちなみに会員数は300団体ほどで、自主管理の管理組合が多いのかと思っていたら、約6割は管理会社に委託しているとのこと。マンション管理業者で組織されているマンション管理業協会とも最近はいい関係でいるようだ。
 平成23年度に名古屋市内の分譲マンション管理組合を対象に実施した調査から現状と問題点等を報告された。管理規約の存在や長期修繕計画の有無などよく指摘される課題もさることながら、耐震診断と改修に対する意識の低さを課題として挙げられた。そのために段階的な耐震改修への支援や長寿命化改修を円滑に進めるためのマンション再生法の制定などを提案された。
 また、犬山市役所の方からは、犬山市の空家対策について報告があった。最近、城下町の景観整備等により、観光面での活性化が著しい犬山市ではあるが、市では景観整備と空家活用に向けて二つの補助制度を実施している。空き店舗等を改装・開業する際に改装費と家賃に対して補助を行う「犬山市空き店舗活用事業費補助金」(平成13年度創設)と城下町地区で修景整備を行う際に外部の改修費に補助を行う「犬山市景観形成助成金」(平成6年度創設)だ。これまでにそれぞれ、前者で33件、後者で127件の補助実績がある。
 また、郊外団地の空家実態についても話があった。コミュニティプラントを設置して管理組合で維持管理をしている団地では、自治会長が団地内の空家状況などをしっかりと把握しており、また空家率も低い。犬山市では今年度から空家相談窓口を都市計画建築課に一本化した。相談の多くは城下町地区でも郊外団地でもない、旧来からの集落からのもので、所有者情報は自治会の方が的確に把握しており、市から勧告をしてほしいというものが多いようだ。なかには相続放棄等で所有者の特定が困難なものもあり、これらの対応が難しい。また古いアパートがまるっと一棟、空家になっている物件もあり、今後こうした空家が増えるのではないかと危惧されていた。
 以上の話を聞いていくつか質問させていただいた。なかでもマンションの空家状況について、中古マンションの売買はあまり活発ではないが、賃貸化することで意外に空家は少ないという回答が興味深かった。もちろん立地にもよるだろうが、古いマンションは立地条件には恵まれたものも多いはずで、あながち間違いとも思えない。これが正しいとすれば、分譲マンションの所有者にとっては、資産を活用したリバースモーゲージをやっているとも言える。
 売買しようと思うと評価額も少なく価値が出ないが、賃貸借に出せばそれなりに価値が発生する。中古価格は500万円でも家賃が月4万円取れるのであれば、10年貸せば元が取れる。名古屋圏の郊外団地の分譲マンションでは300万円台の価格がついたチラシを見ることも少なくない。戸建て住宅については上山先生も、(社)移住・住み替え支援機構の取り組みをリバースモーゲージの一形態として説明されていた。既存住宅流通を中古売買だけで考えると欧米に比べて少ないという判断になるが、賃貸流通量も含めて考えると別の評価がありうるかもしれない。
 いずれにせよ、住宅の価値を「住む機能」としての価値(家賃)として「評価」すること。そして住む機能を「維持」すること、「活用」すること。そうした視点で捉えなおすと、空家に対する施策は別の展開があるのではないだろうか。
 一方で、耐震性のない住宅については、使用価値も小さくなるし、維持・活用の意義は少ない。(社)移住・住み替え支援機構も、耐震性のないものは耐震改修を実施してから物件として扱うこととしている。既に世帯数を上回って住宅数があり、今後、世帯数の減少が見込まれるのであれば、耐震性のない住宅については積極的に撤去していくことが適当かもしれない。
 もちろん古い民家などでは、単に「住む機能」だけでは収まらない「文化的価値」などもあるだろうし、愛着を持って住み続けている住宅は耐震改修などをしていく価値があるだろう。そういう意味では単に「住む機能」ではなく「使用価値」と言い換えたほうがいいかもしれない。
 今後、使用価値のある住宅を適正に評価し、維持・活用していくとともに、使用価値のない建物について適切に撤去していく方策が必要になる。空家対策はこの両面で取り組んでいくことが必要だ。