準備運動が不十分な者は懲戒処分!?

 建築士会連合会の機関紙「建築士」に、国土交通省からの「建築士の定期講習未受講者に対する懲戒処分について」と題する「お知らせ」が掲載されていてびっくりした。日本建築士事務所協会連合会のHPにも同じ文章が掲載されているので、建築士関係の団体に周知を図ったもののようだ。
 また先月29日には、定期講習を受講しなかった11名の一級建築士が戒告処分を受けている。平成20年11月28日に建築士法が改正され、3年毎の定期講習の受講が義務付けられたが、初回の定期講習は概ね3年4ヶ月間になる平成24年3月末までに受講することが必要とされた。国交省では、2年間の猶予をもって平成26年3月末までに受講すれば「戒告」処分。それまでに受講しなかった者には「業務停止2月」の処分を行うとしている。まず第一弾の「戒告」処分が下され、来年度には「業務停止2月」の処分が行われるのだろう。また、平成20・21年度に受講した者は、25年3月末までには2度目の定期講習を受講する必要があるから、これらの未受講者についても今後「戒告」等の処分が行われていくものと思われる。
 アネハ事件以降、建築確認・検査等に係るミスや違反行為に対する処分も、従来よりも厳しく行われているようだ。先日、仲間内で話題になった案件では、道路中心位置の確認ミスで道路後退線にはみ出して建築してしまった事例や、都市計画道路の建築許可を得ず民間確認検査機関の確認を受けて、その後、市役所の指摘で確認ミスが発覚したが、建築士も設計ミスで処分を受けた事例などがある。
 前者のように建築された後で違法状態が発見されたものは処分も止むを得ないが(建物は適法となるよう改築された)、後者のように着工前に必要な許可申請を行い、確認申請もやり直した事例では、実質被害は出ておらず、それで処分を受けるのはやや可哀想な気がする。ましてや定期講習の未受講は、設計内容に不具合があったわけでもなく、それで懲戒処分を行うのはかなり厳しい対応だ。
 設計事務所の責任者である管理建築士や確認申請を行う建築士であれば、定期講習も必要だろうが、今回の処分は単に設計事務所に所属しているだけの建築士も対象になっている。責任者の管理建築士の指示で設計業務を行う者であっても、建築士を名乗る以上は相応の知識が必要だということだろうが、設計事務所にはまだ建築士の資格を取得していない所員もいる。彼らと大して変わらない仕事をしていた場合、設計業務とは何かということが問題になる可能性もある。
 定期講習の未受講で処分するとは、スポーツに例えれば、ゲームが始まる前の準備運動をさぼった者を処分するようなものだ。ゲーム中の悪質なファールにイエローカードやレッドカードを出すことは必要だが、遅刻して準備運動をしなかった選手にイエローカードは通常考えられない。
 アネハ事件が確認申請を行わない構造設計者の犯罪だったため、全ての建築士に定期講習を義務付け、処分も行うことにしたのはわからないではないが、めったにない犯罪に過剰反応して、一般的な建築士に過重な義務を課してしまったのではないか。運転免許証のように有効期限が定められている場合は更新が必要だが、建築士の場合は有効期限はない。それでいて定期講習を義務付け、受講しない者を処分するのは、法制度設計に問題があるように思う。