地震・津波災害に強いまちづくりガイドライン

 中部地方整備局で「地震・津波災害に強いまちづくりガイドライン」の策定が進められている。先月18日に第6回検討委員会が開催され、中間とりまとめ(案)が提示された。先日、中部地方整備局の職員の方から内容について聞かせていただく機会があり、ある意味、大胆な割り切りとまとめ方が興味を引いたのでここに紹介しておく。なお、委員会での資料等は「地震・津波災害に強いまちづくり検討委員会」のHPに掲載されている。

 まずこの「地震・津波災害に強いまちづくりガイドライン」は、地方公共団体が計画立案や整備を進めるためのガイドラインという位置づけである。そのために地方公共団体では、現状把握、課題分析、基本的な考え方の整理、短期及び長期の施策の検討等を行った上で、「地震・津波災害に強いまちづくり基本方針」を策定し、具体の施設整備や事業実施を行うと想定したうえで、そのために必要な検討内容や基本的な考え方等を示している。

 その中で興味深いのは、一つは、海岸平野部・内湾低平地部、半島・島しょ部の3地域においてモデル的方針のケーススタディを行っていることであり、2つ目に、いつ来るかもしれない災害に備えた短期的な取組と、地区の将来像(グランドデザイン)を共有して進める長期的な取組の両面を検討することとしている点である。

 また、避難計画や将来土地利用計画を立案するにあたって、浸水深さを重視している点も興味深い。これは岩手県が被災市町村における復興に向けた土地利用にあたり示した考え方を参考にしたもので、例えば、避難所や災害弱者関連施設は浸水しない区域を基本とするが、その他の公共施設については想定浸水深さが2m(学校・医療提供施設は1m)までは許容するという内容になっている。これは浸水深さが2mを超えるとほとんどの木造家屋が流出等により全面破壊となるが、鉄筋コンクリート造であれば浸水深さ5mまで持ちこたえるとされていること等を根拠としている。ちなみに浸水深さとは津波高さから地盤高さを差し引いた深さとして想定できる。

 この考え方を適用し、海岸平野部のモデル地区の短期施策として、浸水深さ2m以上の海岸部には津波避難ビルや避難施設(タワー)を配置するとともに、重要公共施設は浸水深さ0.3m未満の地区に移転又は土盛り等を検討することとしている。もちろん、建築物の耐震化や家具固定の促進、ハザードマップ等による啓発や防災教育、人材育成、自治会・企業との連携強化なども実施施策として取り上げられている。短期施策は命を確保することが第一目標である。

 また、長期施策(グランドデザイン)の検討では、概ね50年先の姿を描くことを提案している。50年というのは、現存する建物やインフラの更新が概ね行われるとともに、これから生まれてくる人たちが現役世代となる時代である。いろいろな意味で既得権益やしがらみから離れて、かつ実現可能な時期として設定している。

 ここでは大胆な土地利用計画を想定している。2mを越える津波浸水想定エリアには、耐浪性への配慮と十分な避難施設等を確保しつつ、産業・農業・緑地等を集積することとし、浸水深さ1~2mのエリアは土地の嵩上げやピロティ化等を行いつつ市街地を維持することとしている。なお、嵩上げ等は建替え時の自助とし、地震保険等への加入を促すという考えだ。そして重要公共施設や災害弱者施設等は津波浸水想定区域外へ配置することとしている。

 このモデル地区ではこうした原則に沿ったグランドデザインがきれいに実現できるかのように描かれているが、現実の地域では必ずしも原則どおりにはならないだろう。だが、50年先を設定することで、ある程度現状から離れた理想的な将来像を描くことができるし、それを事前に住民・自治体で共有しておくという考え方はわかりやすい。

 ちなみに避難行動がとれるのは浸水深さ0.3mまでである。また、避難には津波到達時間も大きく影響する。これらも考慮して各自治体で現実的な短期計画と理想的な将来計画を策定しておくことが望まれる。

 今年度は中間とりまとめで、来年度、さらに学識者等の意見を聞きつつ、バージョンアップし、自治体向けに説明会等により公表・啓発していく予定だ。「浸水深さ」と「50年先のグランドデザイン」という二つのツールは非常にわかりやすいし、ある程度説得力もある。多くの自治体で「地震・津波災害に強いまちづくり計画」が策定されることを期待する。