岐阜県白川町で木造仮設モデル住宅を見学

Dsc02774 東日本大震災では被災後すぐに、事前に準備をしていた木造仮設住宅を隣町に建設した岩手県住田町の取組みが脚光を浴びた。これに触発された白川町では、林業の町としてこれまで取り組んできた「東濃ひのきと白川の家」を仮設木造住宅に適用。さっそく白川町版の木造仮設住宅を開発し、町内にモデル住宅を建設している。この事業を地域の組織として推進している「東濃ひのきと白川の家 木づなプロジェクト研究会」の主催により、「木造仮設住宅 宿泊体験施設 上棟見学会」が開催されたので参加した。

 岐阜県は、岐阜県産直住宅協会と(一社)全国木造建設事業協会との間で三者協定を締結し、被災時には岐阜県産直住宅協会が木造住宅建設業者の斡旋等を行うこととしている。町内の建築・工務店等で構成される「東濃ひのきと白川の家建築協同組合」が産直住宅協会の会員となっており、この組合に白川町森林組合、東濃ヒノキ白川市場協同組合、東濃ひのき製品流通協同組合、白川商工会、そして白川町が加わって「東濃ひのきと白川の家 木づなプロジェクト研究会」を結成している。 Dsc02787

 当日は名古屋を朝に出て午前10時頃に白川町の「道の駅 清流白川クォーレの里」に到着した。駐車場の隅では既に建て方作業が着々と進行中。白川町産のスギとヒノキによる壁パネルと屋根パネルを標準化。壁パネルはプレカットした柱の溝に差し入れる形で壁を作り、最後に隅柱を上から落とし込んで柱・壁面が完成。その上に梁を落とし込み、束を立て、母屋を流して屋根パネルを敷き込んでいく。断熱材も木質系のものを使用している。作業中のモデル住宅はロフト付で13坪のタイプ。搬入は4トン車3台で、組立は4~5人の作業員で半日から1日弱。常時在庫を確保しているわけではなく、被災後1ヶ月で生産体制を整え、その後は月産100戸建設可能ということだそうだ。ただし外壁は角波鉄板、屋根は銅板葺き。もちろん設備機器や材料も通常の仕入ルートから入手する必要がある。

 上棟中のモデル住宅の隣には9坪タイプのモデル住宅が既に建設されている。4.5畳の和室とLDHに水回りという構成。杉板の内装が心地良い。また、研究会の方たちが特に強調していたのが、仮設住宅撤去後の再利用が可能なこと。また、焼却時のバイオマス利用など木造仮設住宅は環境にやさしい。

Dsc02803 建て方作業が続く現場を後に、駐車場の反対側に建設されている地場産材を利用した宿泊体験施設を見学。こちらには趣の違う木造のコテージが3棟建設されている。どれも快適に夜を過ごせそうだ。

 この日はこの冬一番の冷え込みで、道の駅に設置されたケーブルテレビの天気概況には、正午時点の気温がマイナス0.9度。最高気温はマイナス0.6度。明日の最低気温はマイナス8度と表示されている。午後は小雪がちらつく中を、白川町森林組合が平成20年度から事業を進める「提案型集約化施業モデル団地」の見学をした。これは約150ha、概ね20~45年の林地に作業路を開設し、間伐材を伐採・集積・搬出するもので、75名の所有者の理解を得ながら、国の補助も利用しつつ事業を進めている。作業路の整備や間伐材の伐採状況など、初めて見学したが大変興味深いものだった。非常に大がかりな作業で、間伐材の売却益だけでは到底こうした作業経費を賄えるはずもないが、少しでも所有者に還元できるようがんばっているとのことだった。

 続いて、東濃ヒノキ白川市場を見学。隔週の水曜日に市場が開かれるが、あいにく開催日の週末だったため、市場に置かれている木材は少なかった。市場は入札方式で行われるが、落札された丸太1本1本に符号が書かれた紙が貼られている。分数表示の分母部が落札者名、分子部が落札単価だそうだ。木によって単価が大きく異なるのが興味深い。

Dsc02812 続いて、東濃ひのき製品流通組合の製材施設、バイオマス発電施設を見学。バイオマス発電は近隣の林業や流木等から発生した廃木材を受け入れ発電。発電量は600Kwでこのうち400Kwは製材工場で利用。200Kwは売電をしている。また焼却時に出る蒸気熱は木材乾燥に利用。さらに焼却灰はセメント原料にリサイクルするなど地球温暖化防止につながる活動は大臣表彰も受けている。ただし経営的には赤字だそうで、売電への期待を述べられていた。

 最後に地元白川町、岐阜県、研究会の方々からのセミナーと交流会があった。個人的には産直住宅協会の幹部の方から岐阜県の工務店の状況等を聞かせていただいたのが興味深かった。林業県である岐阜県特有の背景があって成り立っている仕組みでもあり、すぐに愛知県に持ってこれる訳ではない。県・市町村・工務店・設計者・森林組合・製材関係者等、多くの関係者の連携が必要になる。中でも、木造仮設住宅の活用という面では、特に市町村の取組みが重要だと思う。白川町ではその点、町長主導でうまく動いているようだ。

 一方、木造仮設モデル住宅を開発する背景にはうまく木造振興につなげたいという意図がある。被災時の工事発注に乗り遅れまいとするだけでなく、通常時の産直住宅の建設促進に向けて、仮設住宅開発で培った技術等をうまく活用することが重要だ。白川町でも当然その意識で取り組んでいる。逆に言うと、前者だけでは必ずや失敗すると思われる。責任と覚悟を持った取組みが期待される。

●マイフォト 「白川町木造仮設住宅」