江戸・東京・名古屋 歴史に学ぶ安全安心なまちづくり

 「歴史に学ぶ安全安心なまちづくり」と題するセミナーに参加してきた。タイトルが安直だが、講師陣は三者三様。トップバッター、名古屋大学減災連携研究センターの武村雅之先生からは「関東大震災から見える江戸・東京の街の変化」。2番バッター、名古屋大学建築学科の西澤泰彦先生からは「災害の教訓と名古屋のまちづくり」。そしてトリを務めたのが名古屋大学建築学科の若手のエース、廣井悠先生。それぞれ、地震災害と街づくりというテーマで、専門分野から話をしていただいた。ちなみに全て名古屋大学の先生なのは、名古屋大学建築学教室が毎年開催している「まちとすまいの集い」という市民向けセミナーだから。

 武村先生からはまず、関東大震災(1923年)の全潰率の分布地図をベースにその特徴を話された。それが実に興味深い。江戸城築城前の古地図で川や湖沼になっていた地域で明らかに揺れが大きかったことがわかるのだ。後楽園付近はかつて大池という沼地だった。日比谷付近は日比谷入り江が入り込む海だった。そして隅田川以東の低湿地。また関東大震災の被害状況は、安政地震(1985年)の被害状況とほぼ重なる。つまり地形が大きく影響しているということ。そして関東地震と同規模と想定される元禄地震(1703年)では関東大震災に比べてはるかに死者数が少なかった。その理由は隅田川以東にまだ人が住んでいなかったから。

 これらを評して、「関東大震災は科学技術の進歩がもたらした災害」と言う。趣旨は灌漑・治水の土木技術が発達し、それ以前には住めなかった地区でも人が居住できるようになったから。なるほど、そういう言い方もあるか。

 その後は佐野利器の功績、後藤新平の功績など。関東大震災後の帝都復興事業で実現し、着手された道路や公園、橋梁、建物等が現在の東京にも多く残るとか。詳細は武村先生著「関東大震災を歩く」をご覧くださいとのことでした。自著PR。

 続く西澤先生は植民地建築で多くの著作があるが、最近は濃尾地震と都市の成り立ちに関心を持って研究をしているとか。うーん、福和先生の毒牙にかかったか(冗談)。それはさておき、清須越えから話は始まった。伊勢長島から清須へ、さらに那古野へ。それは洪水危険度と利水恩恵とのバランスを考慮した結果だと言う。名古屋城は熱田台地と呼ばれる堅固な地盤の上に建設されたが、排水は西の堀川、東の精進川へ流されている。現在も熱田台地の東西は6m以上も標高が下がっているので歩くとよくわかる。

 続いて広小路建設の話。現在の広小路は万治3(1660)年の大火を契機に拡幅されたが、日常的には広すぎるため、屋台や見世物小屋が並び、繁華街が作られた。無駄を生かして「非常を克服する日常の確立」と評価された。

 その後、濃尾地震の話。煉瓦造は1棟全潰しただけなのに、風評と思い込みのミスリードでその後建設された県庁と市役所が木造になったという。山崎川の改修は区画整理事業と一体で進められ、河道改修後の旧河川跡が今も宅地となって残っている。同様の地形は各地に残っているようで、東日本大震災でも茨城の液状化地が元は沼だったなんて話も聞いたが、古い地形を見ることは重要だ。

 廣井先生の講演タイトルは「まちとすまいとにんげん」。これだけでは何のことかわからないが、都市防災・経営工学の観点から安全安心なまちづくりを考えた。

 前半は江戸時代から現在に至る都市防災計画の歴史を振り返り、都市基盤の整備、都市防火区画の形成から近年は地区レベルの対策へと進んできているという概論を述べる。だは地区レベルの対策は自助・共助に期待するものが多い。住民がやる気にならないと何も始まらないと指摘する。

 その後、東日本大震災の概要、特に津波火災についての被害状況や特徴を説明。続いて帰宅困難者の問題を指摘。帰宅困難者対策が企業・事業所と連携して進められている点を評価した。そして自助の限界の話に移る。

 参加者に簡単な心理テストを行って、いかに人間がリスクを小さく見積もり、また価値観に左右されるかを体験させる。その上で自助に過大な期待をしないこと、人間の行動傾向を踏まえてそれをコントロールしていくことの必要性を述べられた。最後に火災の話をはせたが、これは時間切れでやや尻切れトンボ。

 自助は大事。公助には限界がある。その上で、自助・共助に頼り切らない公助の役割を言外に訴えていたかと思う。何をすればいいのか、難しい話ではあるが。

 質疑応答の時間では、自治会活動やバケツリレーに代表される共助に関する質問があった。廣井先生から、住民が地域へ主体的に関わるまちづくりのテーマとして、かつては景観や環境が注目をされたが、最近は防災に対する関心が高くなっているという回答があり、まさにそのとおりと思った。防災は重要。だが景観や環境も重要。価値観の揺れはあるものの根本はまちづくりに住民が主体的に関わるということかと思う。そのことを改めて思ったセミナーだった。もちろん武村先生や西澤先生の話もとっても面白かったけどね。