都市と消費とディズニーの夢

 先に読んだ「商店街はなぜ滅びるのか」をAmazonで検索すると、「よく一緒に購入されている本」に本書が紹介されていた(今は違う本になっている)。それで興味を持って読んでみたが、正直がっかり。「商店街はなぜ滅びるのか」は日本の商店街の歴史を、労働政策、消費者政策、産業政策という視点から克明に分析し、今後の商店街のあり方についてコミュニティの視点からその展望を描く好著だった。

 一方、本書は、商店街に代わる存在と言えるショッピングモールが社会学や都市計画の立場から一方的に批判されていると述べた上で、「とはいえ、いまだに都市の変化において、大きな役割を果たしているのは消費です」(P59)と言い、都市の公共空間に競争原理が導入され、地価に見合った空間利用がされて何が悪いと開き直る。

 いや、私も都市の公共空間が楽しくカラフルな空間になってきていることを否定しないし、好感さえ持つ。だがそれを競争原理の勝利とひとえに礼賛する気にはなれない。競争原理ではなく、ニーズに応えたのではないか。そして今後さらに格差が拡大し、中間層が貧弱になっていくとすると、アッパーミドルを狙ったショッピングモールはどれだけ生き残っていけるのか。競争原理はショッピングモール間にも働く。しかも筆者が指摘するように、今やショッピングモールは国際競争にさらされている。日本のショッピングモールが筆者の礼賛するテーマ型観光型路線でどれだけ勝ち残ることができるのか。それが多いに心配である。ショッピングモーライゼーション万歳と無邪気にはしゃぐ気にはなれない。

 本書は、「第1章 競争原理と都市」でこうしたショッピングモーライゼーションについて説明、礼賛し、「第2章 ショッピングモールの思想」では、ウォルト・ディズニーのショッピングモールに描いた夢を書き起こす。一方で筆者は、ショッピングモールの生みの親として都市計画家のビクター・グルーエンを紹介する。すると、なぜここまで延々とディズニーの夢について語ってきたかよくわからなくなる。どうやら現代のテーマパークとショッピングモールの合体について説明したかったらしい。

 「第3章 ショッピングモールの歴史」では、専門店が集積したロードサイド型ショッピングモールが登場した1920年代から現代に至る、特徴的なショッピングモールを取り上げ説明をしていく。時に「ゾンビ」や「ターミネーター2」など映画に登場するショッピングモールを紹介しながら、アメリカ人のショッピングモールに対するイメージを語り、わかりやすく興味深い。

 さらに「第4章 都心・観光・ショッピングモーライゼーション」は、実はタイトルと違い、日本のショッピングモール史が綴られている。玉川高島屋ショッピングセンター、ららぽーと船橋、代官山、お台場・・・。そして先に書いたように、これからのショッピングモールは国際的な観光客のための施設として国際競争にさらされるだろうと言う。ドバイ、クアラルンプール、上海、シンガポール・・・。日本のショッピングモールはこれらに太刀打ちできるのだろうか。

 ショッピングモールが楽しい、愛好者だ、というのが本書執筆の動機なのだと言う。それは別にかまわない。しかしカネを落とさない来訪者をショッピングモールはいつまで歓迎してくれるのか。競争原理とは結局そういうことだ。商店街とショッピングモールの最大の違いは、ショッピングモールはディベロッパーが運営する収益装置という点だ。それに対して商店街は単に多様な商店が集積した地域に過ぎない。しかし多様であるということは、商店街の盛衰に関わらず、個々の店舗にとっては生き残り活性化する可能性があるということでもある。可能性は商店街の方に開けているのではないか。

 ショッピングモールが楽しいことは同意する。しかし楽しければいいというわけじゃない。それが一時の夢であり泡である可能性は次第に大きくなっているような気がする。消費原理の上に乗っかっているだけの空間はやはり手放しで礼賛はできないと感じてしまう。

●公共性の高いスペースの収益化を行う場合に、選択肢として選ばれるのが、ショッピングモールとして施設をつくり直すという手法です。こういった一連の現象を筆者は”ショッピングモーライゼーション”と名付けています。・・・都市の公共機能が地価に最適化した形でショッピングモールとしてつくり替えられ、都市全体が競争原理によって収益性の高いショッピングモールのようになっていくという変化、現象がショッピングモーライゼーションです。(P46)
●ショッピングモールを、かつてのダウンタウンに代わるものとして考察したグルーエンは、まずは商業施設の周囲に駐車場をつくり、自動車が入ってこないようにしたうえで、その中心部分に公園や人々が気軽に休めるベンチを設置しました。そして、遊歩道沿いに専門店を並べました。こうしてショッピングモールは誕生したのです。・・・ショッピングモールとは、郊外につくられた新しいダウンタウンでした。(P98)
●1970年代以降のショッピングモールとは、金銭消費型から滞在・滞留型へと進化します。つまりは、消費をするために集まった人びとにお金を使わせることが、本来のモールの消費の在り方でしたが、70~80年代のモールは、足を運んだ人に消費の機会を突きつけるというものに変化したのです。(P153)