名古屋市都市計画マスタープランを考える

 名古屋市の都市計画マスタープランが昨年末に決定・公表された。なかなか面白いという話を聞いていたが、先日、名古屋市の職員の方をお迎えし、内容について伺う機会があったので参加した。名古屋市都市計画マスタープランの内容については名古屋市のHPに掲載されているので、詳細はそちらで見ていただくこととして、説明を聞かせていただいた感想を少し記しておきたい。

 本計画の特色については、HPでも、(1)駅そばまちづくり、(2)戦略的まちづくり、(3)地域まちづくり、と紹介している。中でも、(1)駅そばまちづくりと(3)地域まちづくりは大きな特色だろう。

 「駅そばまちづくり」については、平成19年に策定した名古屋市の総合計画「名古屋新世紀計画2010第3次実施計画」に初めてその言葉が使われ、駅そばの定住人口を5年間で1万人以上増加させる」という数値目標も示されている。その意味ではけっして新しい概念ではないが、これを受けて本計画では、駅そば生活圏等を拠点に設定し、「都市機能の更なる強化」と「居住機能の充実」を図ることとしている。

 もう一つの特色、「地域まちづくり」は本計画独自のものだろう。これはその前提となる「戦略まちづくり」を支える仕組みとして、多様な地域主体による構想づくりと実践を位置づけたもので、計画では、目的・概要、まちづくり構想づくりと実践のイメージ、本計画への位置付けなどが記載されている。

 参加者からは、市長が主導し既にモデル的に試行されている地域委員会との関係を問う質問や、地域まちづくりの具体的内容が不明確であることを指摘する意見や感想が多く述べられていた。地域まちづくりにより策定されたまちづくり構想は、都市マスの地域別構想に位置付けるとされているが、本計画には現状、地域別構想は記載されておらず、今後、この計画にどう追加されていくのか注目される。

 市が2つ目の特色とする「戦略的まちづくり」については、行政発意のまちづくりを進める地区として26の重点地域を定め、地域の状況や特色に応じ、都市力の向上や持続性の向上、居住環境の向上等の施策を講じていくとしている。

 一方で、土地利用、交通、住宅・住環境など9つの分野ごとに、分野別構想も示されており、名古屋市が目指す都市計画の方向については、ある程度網羅的、総合的に示されたものとなっている。

 これらの3つの特色だけでなく、計画全体としては、もちろん最初に目的や位置付けを記した「1.策定にあたって」、概要を記した「2.長期的視点に立ったまちづくりに向けて」があり、さらに「3.めざすべき都市の姿」、「4.まちづくりの方針」(「駅そばまちづくり」はこの章に記載されている)と続き、「5.分野別構想」「6.戦略的なちづくりの展開」「7.地域まちづくりの推進」、「8.評価・見直しの方針」で終わる構成となっている。

 だが、これらの各章、特に「4.まちづくりの方針」と、以降の各章との関係がわかりにくい。「戦略的まちづくり」や「地域まちづくり」はどのように「めざすべき都市の姿」につながるのか。なぜ必要なのか、どういう効果を期待しているのかが「まちづくりの方針」の中に十分記載されていない。  私からは、「めざすべき都市の姿」で示される「人・まち・自然がつながる交流・創造都市」の「人=やすらぎ」、「まち=ときめき」、「自然=うるおい」が、その後の「まちづくりの方針」でも、「安心・安全な暮らし」「交流・創造的活動の場」「低炭素・自然共生都市」として提示され、めざすべき都市構造の視点でも同様の視点が提示されて、「集約連携型都市構造の実現」に導かれるその記述に重複感があるということを指摘させていただいた。本来はその部分に、「戦略的まちづくり」と「地域まちづくり」との関係が書かれるべきではなかった。説明の場ではその点までしっかり指摘・表現することができなかったので、今ここでその感想を書いている。

 その他にも、従来の都市マスを越える試みの意欲は買うが、十分離れられずに中途半端になっているのではないかという指摘もあった。それでも新たな都市整備が従来ほど必要ではなくなった大都市における都市マスのあり方として、一石を投じる内容であるとは言えるのではないか。その点は評価しつつ、都市マスはどうあるべきか。いや、都市計画部局は今後の都市整備にどういう役割を果たすことが期待され、どういう施策が求められているかについて考えさせられた。これは都市計画だけでなく、全ての行政領域にわたって言えることかもしれないが。