日本の建築遺産12選

 ヴィジュアル入門書「とんぼの本」シリーズの1冊。「語りなおし日本建築史」の副題のとおり、磯崎新が日本の建築遺産を12選定し、それをもって日本建築史を語りなおす。常に外国から新たな建築技術や様式を導入しながら、独自の変形「和様化」を図ってきた日本の建築。それを、「垂直の構築」「水平の構築」のキーワードにより、2対6つのペア、合計12の建築物を選定し読み解いていく。

 選定された建築物が特別なわけではない。が、垂直・水平の2対で選定していくことで、「構築する力」が露わに示される。垂直の出雲大社と水平の伊勢神宮。垂直の浄土寺浄土堂と水平の唐招提寺金堂。垂直の円覚寺舎利殿と水平の三十三間堂。・・・

 現代建築からは、丹下健三の代々木オリンピックプールと磯崎自身の水戸芸術館アートタワーが選定されている。水戸芸術館アートタワーが建築遺産にふさわしいかどうか、垂直の代表にふさわしいかは議論もあるだろうが、言わんとすることはわかる。

 「おわりに」では、1995年頃までに近代建築から始まった和様化が完了したとして、次はグローバリゼーションによる新たなステージが始まったとしている。震災後の今、われわれはどういう「和様化」を果たしていくのか。まずは、受容すべき新たな社会制度の設計が問われていると指摘する。

●僕にとっての「建築」とはなにかと問われたら、それは「構築する力」であるとこたえたい。(P7)
●日本の建築は・・・外部から入ってきたものを常にオリジナルとは違う形で独自に変形させてきた・・・僕は、その変化の過程を「和様化」と呼んでみたい。そして、その「和様化」をめぐる建築の歴史を、ひとつの虚構として立ちあげたうえで、日本建築史を語りなおしてみようと思っています。(P11)
出雲大社社殿は、記録で確認できるだけでも、平安時代から鎌倉時代にかけての200年前に6~7回も倒壊しています。平均して30年に1回。・・・まちがいなく、構造的な不備ないしは無理があった。・・・にもかかわらず、あえてその無理な巨大化にいどみつづける。それが、出雲における「構築する力」でした。(P23)
遷宮の歴史は、単純な反復ではありません。同一性が保持されながらも微妙に変容していった。そして、より伊勢にふさわしい形式が模索され、より純粋なデザインへと収斂してゆく。・・・伊勢神宮は、・・・当初は決して「日本的」ではなかった。後代に補填され、修正されていったのです。(P30)
●グローバリゼーションのツナミが列島をおおい、リーマンショック以来、泥沼化していると見えた矢先のことでした。外圧―内乱―受容(もどき)―変形(やつし)(和様化)の次のサイクルが始まっていたのです。今は内乱状態とみえます。とすれば、つぎに何を「もどき」、どのように「やつす」のか。・・・これが新しい次元における建築です。(P120)