高蔵寺ニュータウンの未来像

 (社)都市住宅学会中部支部住宅再生部会が主催して、「高蔵寺ニュータウンの未来像」と題するシンポジウムが開催された。冒頭、椙山女学園大学の村上先生からあいさつを兼ねて、多摩・千里と比較しつつ高蔵寺ニュータウンの概略説明があった後、基調講演として、首都大学東京の角田先生から、多摩ニュータウンにおけるファシリティマネジメントの観点からの公共施設の柔軟な利活用に関する話があった。

 続いて、昨年度、椙山女学園大学の学生らで作成したドキュメンタリー映画「42年目! 宝人たちの挑戦~高蔵寺ニュータウン物語」が上映された。地元ケーブルテレビで放映されたと聞いており、一度見たかった。この日の一番のお目当て。フォークジャンボリーに出演した住民に焦点を当ててニュータウンの現状を描く作品で、それなりに面白かった。

 休憩の後、高蔵寺ニュータウンにおける活動・取組みの紹介として、高蔵寺ニュータウン再生市民会議の曽田先生、春日井商工会議所青年部会長の河合さん、そして名古屋大学大学院生の伊藤さんからそれぞれ報告があった。

 高蔵寺ニュータウンのプランニングの段階から関わってきた曽田先生からは、ニュータウン開発の背景や計画理念まで遡って説明をされたが、要点は再生市民会議が作成した「NECOガーデンシティ構想」。NECOとはNEOとECOを合わせた造語ということだが、様々な課題とそれへの対応を整理し、周辺の農業地域とも連携した市民主体のガーデンシティを目指すという内容だった。

 河合さんからは最近実施している「恋のダイサク~恋のハッピー大作戦」が婚約率も高く成功しているという紹介があった。ニュータウンは恋の花咲く街になる?

 伊藤さんからは修士論文に向けた中間報告ということで学術的な内容が主だったが、①近隣の他の団地と比べて住戸面積が多様な点に注目して、多世代・多様な住民を受け入れる可能性があること、②空地・空家が多いと言われるが、最近は利活用が進み、減少傾向にあること、③ニュータウンの周辺地域でカフェが増加している点を捉え、周辺のポテンシャルの活用、などを報告されていた点が興味を惹いた。

 その後のパネルディスカッションは名古屋商科大学の納村先生をコーディネーターに、角田先生、曽田先生、河合さん、村上先生がパネラーを務めた。その前に質問票の受付があったので、私からは「高蔵寺ニュータウンだけに閉じるのではなく、周辺の区画整理開発による人口急増地域も加えた拡大ニュータウンを対象にして再生を考える必要があるのではないか」という意見を提出させていただいた。曽田先生からは「そのとおり」と簡潔な回答をいただいたが・・・。

 他の方からの「団地再生の成功を計る指標はあるのか」という質問に対して、村上先生が「アメリカではマーケットの資産評価を指標にしている例もある」と答えられた。なるほど。もっとも会場から「それはスラム地域の再生には適用できるが、ニュータウンには適さないのではないか」という意見もあり、いずれにせよ興味深かった。

 パネルディスカッションではコーディネーターの納村先生から、①どうしてニュータウンを再生する必要があるのか? ②どのように取り組めば活性化するか? という鋭い二つの問いが発せられ、パネラーが順次答えていった。

 角田先生からは、「ニュータウンを歴史化してはダメだ。常に新たに展開・再生していくことが必要。ニュータウンではなく、リ○タウンであるべき」というご意見。また後者の質問については、「URオンリーから他の主体を取り込んでいくことが必要」というアドバイスがあった。

 村上先生からは、「人工環境であるニュータウンを、いかに時代の変化に対応させ使い続けていくかが求められている」というお答え。そして、「ニュータウンは環境はいいがどうしても画一的であり、それが現代の若い世帯から敬遠されている要因である」という知見から、今後のキータームとして「多様化と共通のプラットホーム」を挙げられた。

 さらに河合さんから、後者の質問に対して「イメージ戦略が必要」という回答があり、曽田先生からは「これからは地域分権の時代。地域住民が中心となり、行政に頼らず、自立していくことが必要だ」という意見を出された。

 最後に、会場から、「ニュータウンはまだ40年で1サイクルしていない。高齢者が増えればビジネスチャンスが増え、若い世帯が集まる可能性もある。もう少し長い目で評価する必要があるのではないか」という意見が出された。曽田先生は「いや、ここ5年が勝負だ」と言われる。

 私はどちらかと言えば、会場の意見に近い。かつ、ニュータウンだけに限らずもう少し広い地域、長い時間で評価をすべきだし、そうすることで再生の可能性も広がると考えている。例えば、周辺地域の若い世代がニュータウンの資産を持つ高齢者をターゲットにビジネス的に活性化するのであれば意味がある。そして長い時間スパンの中で、縮退すべき地域をいかに縮小していくかを考えていく。そういう地域戦略の視点が必要だと考える。

 それにしても、中層エレベーター無しの階段室型住棟はチープだ。高蔵寺ニュータウンの一番のガンは、UR賃貸住宅の再生ではないかと思う。URが住宅再生への意欲を見せること、それが一番効果があり影響も大きいのではないか。そんなことをシンポジウムが終了した後のニュータウンへの帰路途中で考えた。並木の坂道を自転車であえぎつつ登りながら・・・。