高齢者は住み替えねばいけないのか

 立命館大学の大垣先生が中心となり、主に郊外住宅地の持家に居住する高齢者を対象に、その住宅を借り上げ、若年世帯に転貸しつつ、高齢者に移住先を紹介する住み替え支援事業が始まったのはいつのことだったか。2006年には、「一般公益法人 移住・住みかえ支援機構」が設立され、最初は首都圏の郊外住宅地を中心に事業を展開していたが、その後全国展開を図り、現在では多くの実施事例があるようだ。

 高齢者居住安定確保法が平成21年度に改正され、都道府県は国の基本方針に基づき、高齢者居住安定確保計画を定めることができるようになった。法律では計画の中に、高齢者に対する賃貸住宅及び老人ホームの供給の目標を定め、この達成に必要な事項を定めることになっている。高齢者が安定的に居住するということがどういうことを示すのか、議論はあるだろうが、この法律では高齢者が居住の安定を手に入れるためには高齢者向け賃貸住宅等に住み替えねばならないかのようだ。

 「住宅」の最新号(VOL.60,2011)に弘前大の北原先生が「地方都市における郊外住宅地の持続可能性とは」という論文を寄稿している。北原先生といえば青森県のコンパクトシティにおいて主導的な役割を果たしてきたと認識しているが、本論の中でコンパクトシティ論が陥りがちな安易な「街なか居住」施策について批判し、「住民が納得する住み替え施策」について試論を書かれている。

●コンパクトシティは、郊外居住を非として、・・・郊外居住者を街なかに住み替えさせて、できるだけコンパクトな都市にしていこう、などという考えではない・・・。地価の高騰や旧来からの権利関係の複雑さの解消から逃避する形で、対応が容易な土地にエネルギーを投与し続けてきたこれまでの都市計画を、既存市街地の再編集をする中から新たな「場所」を生み出し、郊外地域と中心地域とをライフステージの中で上手に使い分けることが可能な・・・都市を目指していくということではないか。(P26)

 「住民が納得する住み替え施策」についてはまだ明確な形では記載されていないが、郊外住宅団地内で、戸建て住宅から高齢者専用賃貸住宅への住み替え、従前住宅のリフォームと子育て世帯の優先入居、公営住宅高専賃化等が提案されている。一言で言えば「地域内循環居住」である。この言葉は早稲田大学の佐藤滋先生が10年以上前に使われるのを聞いて、なるほどと思ったことがある。ただしその当時は、佐藤先生も高齢者の住み替えを主題とは考えていなかったように思う。 「地域内循環居住を視野に入れた既成市街地のまちづくり」  高齢者は住み替えねばいけないのだろうか。今住んでいる自宅に住み続けることができればそれが一番理想ではないか。バリアフリーなどハードな障害はリフォームすれば対応できる。緊急通報なども福祉サービスで入手できる。介護保険は在宅介護を前提とした制度ではないのか。

 もちろん一人暮らしが寂しい人もいるだろうし、自宅を改修するよりも共同住宅に転居した方が経済的にも安く済むこともあるだろう。それは高齢者自身が選択すればいい。住宅・福祉関連の民間業者や公益法人が市場の中で提供することもあっていい。だが行政が「住み続け」よりも「住み替え」を推奨し、施策として推進するのは何か解せない。集住による介護サービス費用の軽減効果を期待しているのか、それとも建設産業や不動産業界の振興といった思惑があるのだろうか。それにしても「住み替え」施策に偏りすぎていないか。バランスの取れた高齢者居住施策が必要ではないか。