高齢者の住み替えは善か?

 「高齢者の住まい」として最近、高齢者専用賃貸住宅が取り上げられることが多い。バリアフリー仕様は当然として、見守りや生活支援サービス等が付いた「安心できる住まい」という触れ込みである。生活支援サービスは応益加算としても見守りサービスのための経費がバカにならない。

 先日訪問した有松の高齢者向け優良賃貸住宅は、緊急通報システムは任意で、それ以外のサービスは一切付いていない。同一敷地内にデイサービスセンターがあることが安心感を加えているが、家賃は所得に応じて市から家賃補助が出るからそれなりに格安ではあるのだが、管理開始後半年が過ぎて、未だ半分は空室のままと言っていた。

 これには高齢者向け優良賃貸住宅に係る制度的な問題もあるが、そもそも高齢者はこうした高齢者専用の賃貸住宅に住み替えたいと思っているのだろうか。

 平成20年度の住生活総合調査によると、75歳以上単身の81.7%、65歳以上夫婦のみ世帯の81.0%は「現在の住まいに住み続けたい」と回答している。それぞれ「わからない」と「不明」が1割以上あるので、「住み替えたい」とするものは1割以下に過ぎない。

 高齢期における住み替え意向と住み替え先を聞いた質問もある。これによれば住み替え意向のある割合は、75歳以上単身で7.9%、65歳以上夫婦のみ世帯で7.3%であるが、このうち老人ホーム等の施設を挙げるものが3~4割を占め、サービス付き高齢者向け住宅は2~3割となっている。これらを掛け合わせると、サービス付き高齢者向け住宅の需要は高齢者世帯のわずか2%程度ということになる。

 自分のこととして考えてみても、健康なうちは今の住まいに住み続けたい。手助けが必要になっても、できれば今の住まいに住み続けたい。施設に行こうが、入院しようが、自分の居住地は今の住まいだと思うだろう。

 なかには今の住まいや住環境に不満のある人もいるだろう。子供世帯と折り合いが悪かったり、近隣トラブルもあるかもしれない。しかし、たぶんほとんどの高齢者にとって老人ホーム等の施設は子供等に迷惑をかけないために仕方なしに行くところで、けっして望んで行くところではない。サービス付き高齢者向け住宅も同じではないだろうか。

 もちろん単身高齢者者にとっては、広い部屋で一人暮らしするよりも、人の気配のする共同住宅の方が居心地がよかったり、安心ということもあるだろう。しかし逆にわずらわしさを感じる人もいるに違いない。昔からの知人や家族とのコミュニティは高齢期になればなるほど重要で、住み替えるにしてもそれらが途切れないことが必要だ。これらを一から作り直すというのは、高齢者にとってはかなり難儀なことだろう。

 こうして考えると、高齢期の住まい対策は、現在の住まいに住み続けられることを第一に考えるべきではないのかと改めて思う。そのためには在宅介護や生活支援の仕組みこそが大事であって、住み替えは次善の策であるはずだ。住宅に関して言えば、バリアフリー・リフォームが重要であり、たとえ住み替えるにしても、ごく近くにある必要がある。高齢期には高齢者向けの住まいという最近の風潮には、どこか胡散臭いものを感じる。