民間非営利組織による住宅供給と貧困ビジネス

 「民間非営利組織による住宅事情」に関する研究報告を聞いた。都市再生機構都市住宅技術研究所の海老塚氏による講演で、海老塚氏の執筆で3月に発行された同名の書籍をベースにした話。もっとも、本書を私はまだ読んでいないし、海老塚氏の講演も、民間非営利組織による住宅供給事例の報告が中心だった。

 紹介された住宅は、敷地共同化・コーポラティブ住宅として、「みくら5:まち・コミュニケーション」(神戸市長田区)、「COMS HOUSE:都市住宅とまちづくり研究会」(千代田区)、「つなね:つなねコーポラティブ住宅建設組合」(奈良市)、「浄瑠璃NPO法人FUSION 長池」(多摩市)の4事例、高齢者住宅として、「グループリビングCOCO湘南台NPO法人COCO湘南」(藤沢市)、「サービスハウス ポポロ:NPO法人MOMO」(厚木市)、「グループホーム メゾネットたんぽぽ:ぬくもり福祉会たんぽぽ」(埼玉県飯能市)、「グループホームなも:名古屋南医療生協」(名古屋市)、「ぼちぼち長屋:社会福祉法人たいようの杜?」(愛知県長久手町)の5事例、ホームレス住宅として、「千束館:NPO法人ふるさとの会」(台東区)、「やまぶき舎:スープの会」(新宿区)、「ハーバー宮前:NPO法人神奈川県消費者信用生活サポート」(厚木市)、「行徳荘:NPO法人エス・エス・エス」(千葉県市川市)の4事例。

 さらに、民間非営利組織に着目した欧米各国の住宅政策の歴史の概略の説明と、欧米との比較を通じた日本の民間非営利組織による住宅供給の提案がされた。

 最も興味を惹き、また注目をしたのは、ホームレス住宅の事例である。紹介された各住宅とも、入居者が生活保護費等から支払う利用料金により運営されており、住居費は関東エリアの住宅扶助費である53,700円。これに生活費を3~7万円加算して徴収している(「やまぶき舎」は自炊のため無料)。

 平面図を見ると、各部屋狭小で、1室に2ベッドという施設も多く、東京の住宅家賃としては格安なのだろうが、公営住宅と比較するとかなりの高額という気がする。公営住宅等の場合は住宅供給主体に対する補助がベースに低額な家賃設定がされており、これらのホームレス施設の場合は入居者に対する直接の住宅費扶助が行われている。公的支援の対象者が違うわけだが、生活保護世帯に対してはこうした住宅供給が事業として成り立つというのは興味深い。

 事例最後のNPO法人エス・エス・エスは首都圏でかなり手広く事業を展開しており、施設数127施設、入居者は約4000人。職員も正規職員200名、アルバイト職員250名を数え、事業収入は40億円に近いと言う。こうした状況に貧困ビジネスという批判もあるそうだが、貧困ビジネスと非営利活動の線引きは難しい。

 今月から離職退去者向けの住宅手当もいよいよ始まるそうだが、住宅手当や住宅扶助費などの家賃補助制度と公営住宅制度との関係がどうなっていくか。今後の状況変化に興味が持たれる。

 もう一つ話題になったのが、シェア居住の事例である。民間空き家を借り上げグループホームとして施設提供している「ほっとポット」(埼玉県)や文京区などのシェアードハウスの事例などが紹介されたが、考えてみれば昔の賄い付き下宿であり、当然そういう居住形態は考えられる。大東文化大とURが連携して実施している高島平団地や千葉大とURが連携して実施した西小仲台団地のシェア居住の事例も、高齢者と若い世帯とのミックス居住として注目を集めているが、ぼちぼち長屋のOLや子育て世帯居住と同じコンセプトであり、当然考えられる居住形態だ。

 海老塚氏からは、民間非営利組織による住宅供給を活発にしたいがどうしたらよいだろうか、という問題提起がされた。家賃補助制度の普及など、公的支援の拡充がなければ難しいと思うが、公共住宅との関係で言えば、公共住宅主体が住宅供給から撤退するとともに、民間非営利組織による住宅供給事業に対して家賃補助を行い、余剰技術者による民間非営利住宅事業の起業を支援・誘導するというスキームが考えられる。

 現実、民間非営利組織による住宅供給を担うことができる専門的人材は公的住宅主体や民間住宅事業者が抱えているのが実態であり、現在のぬくぬくした就業状況の中から非営利活動にチャレンジすることを期待するのはほとんど非現実的である。チャレンジに足るリスクヘッジとチャレンジせざるを得ない環境への放出がなければチャレンジが起こるはずもない。

 そういう意味では、例えば、退職金代わりにURの住棟を一棟ずつ、退職者に譲渡することにすれば、イヤでも非営利の住宅供給事業を始めるのではないか。講演会後、そんな暴論を友人と交わしつつ帰途についた。