コミュニティを問いなおす

 あとがきで、本書は「グローバル定常型社会」と”対”の関係にある、と書かれている。「グローバル定常型社会」で語られた有史以来の歴史認識とその上で提唱される「環境と福祉の統合」。ローカル・コミュニティを出発点としたグローバル・ミニマムな対応という発想をさらに問い進めた結果、筆者の目に止まったのは都市計画と住宅政策だった。

 全体3部構成で、第1部「視座」、第2部「社会システム」、第3部「原理」で構成される。第1部は、「都市とコミュニティ」を主題においた第1章「都市・城壁・市民」で始まり、「コミュニティの中心」という視点から、「空間的な多様性」による解決へと目を向ける。そこでは「福祉地理学」や「空間化するケア」という独自の視点が示される。

 第2部「社会システム」では、都市計画の国際比較や歴史軸で見た都市政策・福祉政策の変遷を分析し、第5章で「ストックをめぐる社会保障」を検討する。自治体に対する土地・住宅政策アンケートが引用されているが、内容についてはそれほど目新しいわけではない。逆にこれまで福祉政策に目を向けていた筆者が都市政策・住宅政策をストック政策として注視する視点が興味深い。そして「福祉政策と都市政策の統合」である。

 ここで筆者は、今後重要となる政策として次の4つを列記する。(1)「人生前半の社会保障」の強化、(2)住宅の保障機能の強化、(3)福祉(社会保障)政策と都市政策の統合、(4)課税・財源のあり方、である。特に3点目については、都市マスなどの最近の方向を評価しつつ、「空間格差や社会的排除を生みにくい都市のあり方」という課題を指摘する。現に公営住宅で起きている貧困の集中、スラム化という状況に対して、解決の方向を示唆するものであり、確かに福祉政策と都市政策、なかんずく住宅政策は一体のものである。

 第3部は全体を振り返り、特に第6章では、現代社会の構築の重要な起動源である「科学」に目を向け、人間(個人)と社会(コミュニティ)と自然の一体化の方向を指摘する。その上で、筆者の学生時代の問題意識「独我論」を引き合いに、コミュニケーション、新しいコミュニティ、普遍的な価値原理の構築の3つを定常化する時代におけるポイントであると指摘する。

 本書はコミュニティ論であり社会論であるが、都市政策・住宅政策の転換と重要性が一貫して述べられている。その点で、都市・住宅の専門家にも大いに参考になる。広井氏は「定常型社会(岩波新書)」の時から注目してきた社会学者であるが、本書を読み、ますます目を離せないと思った。

【参考】 「定常型社会」 「とんま天狗は雲の上:グローバル定常型社会」

 

●現在の日本の都市において、見知らぬ者どうしのコミュニケーションがほとんど見られないということと、いま述べたような「建物」の孤立性ということは表裏のものに見える。つまり人と人との関係のあり方という「ソフト」面と、建物どうしの関係や全体としての街並みという「ハード」面のありようとは不可分の関係にあるということである。(P041)
●”「福祉」を場所・土地に返す”こと、つまり福祉というものを、その土地の特性(風土的特性や歴史性を含む)や、人と人との関係性の質、コミュニティのあり方、ハード面を含む都市空間のあり方(たとえば商店街や学校、神社・お寺等、先述の「コミュニティの中心」の分布やポテンシャルなど)と一体のものとしてとらえ直していくことが重要となっている。(P083)
●こうした「外部」との接点(あるいは外部に開かれた”窓”)としての性格をもつ場所が「コミュニティの中心」としての役割を果たしてきたという事実自体が、「コミュニティ」というものが本来的に外部に開かれた存在であるということを示している、といえるのではないだろうか。同時に、そうした内部と外部との動的な相互作用が、コミュニティそして人間の「創造性」ということと重なっているのではないだろうか。象徴的にいえば、コミュニティはその「中心」において外部へと”反転”するのである。(P092)
●今後の(経済成長という目標の絶対視から抜け出た)成熟化ないし定常化の時代におけるコミュニティやつながりの構築において、(1)ごく日常的なレベルでの、挨拶などを含む「見知らぬ者」どうしのコミュニケーションや行動様式、(2)各地域でのNPO、社会的起業その他の「新しいコミュニティ」づくりに向けた多様な活動、(3)普遍的な価値原理の構築がポイントになる(P249)
●結局自分がやっていることは「人間についての探求」と「社会に関する構想」という二つに集約されると感じているが、コミュニティというテーマは、ある意味で他ならずこの両者を架橋する、結節点のような主題のひとつであると思われる。(P289)