団地再生まちづくり2

 友人が東京都東久留米市でUR都市機構が実施した「ひばりが丘団地ストック再生実証実験」を見学してきた。雑誌などで読んだ限りでは、減築を始め多様なストック再生の試みを行っており面白そうだなと思っていたが、見てきた友人によれば、取り壊し予定の住棟を対象に、多大な経費をかけて物理的な実施可能性を検証したもので、経済的な有効性や従前居住者の住み替えや継続居住等の問題などが検証できておらず、つまらなかったと言う。

 ちょうど仕事でも、従来の建て替え一辺倒の更新計画が財政状況などから計画どおりの実施が困難となりつつあり、さまざまな再生手法を取り入れた団地再生を検討していこうと考えていたところだったので、友人の言葉にはがっかりしたが、本書を読みつつ、予算的にも住環境的にも、またコミュニティ、地球環境、居住支援、地域活性などの面からも有効な再生のあり方について夢を膨らませた。

 本書は全体4章の構成で、団地再生の理念からドイツ・ライフェネルデを始めとする再生事例、地域に視野を広げた取組み、居住支援活動の事例、さらに具体のリフォーム事例や設備から見た再生技術の紹介に至るまで、実の多くの事項について、専門家の論文が集められている。その数、全部で39編。これには序を書いた村松秀一教授なども含んでいるが、1編は6ページほどの分量で、多くの専門家や活動家がそれぞれの立場や見方で書いており、目録的な観点からも再生のもつ意味の広がりが感じられ興味深い。また図版が多いのも特徴。カラーページを見ているだけでも面白い。

 全体のストーリーというような構成はあまりされていなく、具体的な技術を紹介する第4章を除いては、どこから読み始めてもいい。それだけ多様な視点があり得るということでもあり、再生の可能性を表しているとも言える。

 分譲マンションを念頭に再生の有効性と方法を論じる文章が多いが、私の目下の関心は、公営住宅において事業経営的に成り立つ再生手法にあり、その点では、「棟別再生」の考え方と可能性について記述している小林秀樹氏の論文に興味を持った。

 中部圏では椙山女学園大学の村上先生が論を寄せているほか、多治見ホワイトタウン自治会の元役員さんからの寄稿もあり目を惹く。実は団地再生については経営的に少しあきらめていたところもあったが、心機一転、真剣に考えてみようという気がフツフツと沸き起こってきた。元気になる1冊でもある。

●「箱」の産業から「場」の産業に転換するうえで、どんな血を導入すればよいのか。まずそれはその場で生活する人々、空間を利用する人々であろう。・・・建築をはじめとする居住環境の専門家独自の知識も必要だが、空間の利用者が再生事業において中核的な役割を担うべきことは論をまたないと思う。このいわば「利用の構想力」をどう導き、どう組織化し、それにどのような形を与えるか、それこそが専門家側の勝負どころとなる。(P5)
●実は「再生ブーム」は必ずしも望ましいものではありません。大量・急激につくり出した地球上の人工環境へ手を入れ続ける努力を怠った結果、あるいは、手を入れ続けるシステムを用意していなかった結果、急激な環境性能向上を行わざるを得なくなった現象にほかならないからです。(P19)
●私が注目するのは、郊外団地は、数多くの住棟から構成されている点です。実は、この特徴は、団地再生を進めるうえでは好都合なのです。というのは、同じ団地のなかで、建て替えをする棟や修繕のみとする棟を混在できるからです。これにより、住民の選択の幅を広げることができます。このように住棟ごとに再生方針を選択する方法を「棟別再生」といいます。(P105)