各務原の景観まちづくり

 都市住宅学会中部支部の見学会で、岐阜県各務原市可児市を見学した。秋の午後からの見学会で、明るい時間が短く、駆け足で巡ったものの可児市に着く頃はもう夕闇が迫り、あわただしい半日となった。まずは各務原の景観まちづくりから。

 まず最初に、「学びの森」横の那加福祉センターで、各務原市景観計画の概要を伺う。人口約15万人の各務原市は、名古屋市、岐阜市へのベッドタウンでもあり、県内第2位の工業出荷高もあり、さらには市域に自衛隊基地も抱えることから、人口も順調に増加し、財政的にも比較的ゆとりのある自治体と思われる。

 現在3期目を迎える現市長のリーダーシップの下、平成18年4月に景観法に基づく景観計画を策定した。濃尾平野の最北部に当たり、北に山、南は木曽川に挟まれ、東西に中山道が走る多様な自然と文化を備えた市の特徴を生かし、市内全域を森・まち・川・田園と歴史の4つの風景区域に分け、テーマと方針を定めている。市内全域に地区に応じた高さ制限をかけるとともに、高さ20m超・延べ1,000m2超の大規模建築物等に対する届け出制度を規定している。また、テクノプラザ、グリーンランド柄山の2つの景観地区と、9つの重点風景地区を指定。テクノプラザ景観地区では景観協定も締結している。各務原の景観基準の特色に一つに、色彩ガイドラインをマンセル表色系で明確に定めていることが挙げられる。重点風景地区内における新築・増改築等は届け出・審査が義務づけられ、さらに景観アドバイザー、景観審議会といった制度も整備されている。また、中山道鵜沼宿の歴史的建造物のうち15物件を景観重要建造物に指定しており、修景整備に対する助成も行っている。また、県を隔てた木曽川対岸の犬山市と木曽川景観協議会を組織している点も特徴の一つだ。 Imgp6033

 「学びの森」は、まっすぐに続く並木道が「冬のソナタ」のロケ地となった春川市南怡島の並木道とそっくりだということで話題になった。ちょうどイチョウが黄葉のまっさかりで、美しい景観を見せていた。来月にはイルミネーションが飾られ、多くの人を集める。各務原市は韓国春川市と姉妹都市提携をし、各務原キムチなども積極的にPRしている。

 「学びの森」そして隣接する市民公園や中部学院大学ともども岐阜大学の跡地で、全部で12.3haほどもあり、有効に活用し、都市ビジョンである「公園都市(パークシティ)かかみがはら」づくりを進めている。市民公園の西に流れる新境川沿いには桜並木が整備され、春には30万人近くが訪れるという。

Imgp6039 市の北西端になるグリーンランド柄山地区は、積水ハウスが分譲している面積4.3ha、126区画の戸建て住宅地で、景観地区に指定されている。分譲時から宅地裏路地を利用した電線地中化や壁面後退と緑化など、景観に配慮した整備がされていたが、それを将来とも担保するため、既に一部住民が居住していた状況ながら、住民協議を重ね、景観地区に指定した。ただし景観地区として定められる事項は、高さ・色彩、壁面後退、敷地面積、意匠形態に限られるため、景観形成ガイドラインを作成し、緑化や外構についても自主規制を行っている。東に聳える権現山を背景に、グリーンランドにふさわしい自然豊かな景観が美しい。

Imgp6043 次に、同じく景観地区に指定されたテクノプラザ地区の横を通り過ぎ、「瞑想の森 市営斎場」に向かう。設計・伊東豊雄建築設計事務所、周辺環境デザインを石川幹子が担当。西側に広がる山並みに合わせ、雲のように漂うシェル構造の白い屋根が特徴だ。外壁はほとんどガラスで覆われ、建物に面して配置された池と一体化している。室内も、流れるような曲面天井にリジッドな大理石壁面。その足下はゆるくアールを描いて床面と一体となっていく。グランドピアノが置かれ、コンサートが催されたこともあるとのことだ。

 斎場を出て、市の中心街路を東に向かう。沿道7kmの区間にイチョウ並木が美しい。剪定はしない方針を市長が宣言し、電線には防護チューブが巻かれている。落ち葉の掃除は、市も年4回実施するものの、基本的に市民管理とし、ゴミ袋の無料配布を行っている。また屋外広告物規制もしており、市民ボランティアのビューレンジャーが張り紙剥がしの活動を行っている。

Imgp6050 各務原市の西端から東端まで、30分近くも車を走らせ、ようやく鵜沼宿へ。重点風景地区として、「宿場町としての歴史的まち並みの再生」をテーマに、風景形成基準を定めるとともに、まちづくり交付金を活用し、菊川酒造(株)本蔵など景観重要建造物の修景や町屋館の整備、脇本陣の復元等の整備を進めている。時間がなく、町屋館の見学しかできなかったが、2階のむくり天井など見所の多い建物である。江戸時代は旅籠を営み、昭和39年までは郵便局として使われていた商家で、濃尾地震で倒壊した後、明治末に再建されたもの。今回の整備に伴い、主屋を1mほど曳家し、付属屋・離れともども登録文化財に指定されている。旧中山道の市道鵜698号線は非常に交通量が多く、駐車場からの横断もままならない。再生計画では水路を復元することとしており、住民との協議が進められている。

 以上、非常に早足で各務原の街を西から東まで通り過ぎた。景観計画では、村国座や晩松園(旧川上別荘)、ごんぼ積み集落地区などが重点風景候補地区に挙げられており、まだまだ多くの見所がありそうだ。また機会をつくって見て回りたい。

 マイフォト「各務原の景観まちづくり」もごらんください。