見えない震災☆

9月から始まった大学の後期授業では、講義の最初に、講義内容に応じたワードを示し、最後にそのワードの説明をすることにしている。取り上げるワードは本のタイトルのこともあるし、誰かの言葉だったりする。今週の講義は「災害と住まい」をテーマに予定して…

アフターコロナの都市の住まい☆

筆者の米山秀隆は、長く空き家・空き地問題について研究を続けている。2018年に読んだ「捨てられる土地と家」や「縮小まちづくり」は興味深かった。アフターコロナ禍で米山氏がどんな考察をしているか、興味があった。 本書のタイトルと同じ題名がついた序章…

日本近現代建築の歴史☆

筆者の経歴には「建築家」と書かれているが、どんな作品があるのか、私は知らない。主な著書に「白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか」とあり、こちらは数年前に読んだことがある。正直、日埜直彦という人のことをこれまでほとんど知らなかった。…

未来都市はムラに近似する

北山恒という建築家は、名前は知ってはいたが、どんな作品があるかまでははっきりとは知らなかった。本書は、横浜国立大退任時の最終講義とその後の論考、及び、北山氏が設計した二つの建物内に置いて、教え子である高橋一平、中川エリカの二人の若手建築家…

コロナ禍で、都市の意味と役割を再考する

これも1ヶ月以上前の講演会の記録。コロナ禍における新たな都市の在り方について、名城大学名誉教授の海道先生から話を聞いた。と言っても、海道先生がこの分野で先進的な研究をしているわけではない。というか、そんな研究者はどこにもいない。多くの識者が…

都市計画と‘まち’の行方

先に投稿した「平成都市計画史」で、筆者である「饗庭伸の講演会の様子を報告する」と書いた。しかし、その後も色々と忙しく、なかなか書く時間が取れなかった。でもさすがにもう1ヶ月以上が経過した。忘れないうちに感想などを残しておこう。 講演会のタイ…

平成都市計画史☆

筆者の饗庭伸は、平成元年に大学へ入学したと言う。平成の30年間はまさに筆者自身の都市計画研究とともにあった。そしてバブルの真っ盛りからその崩壊、地方分権と民活・市場化、さらに本格的な人口減少時代の到来。その間には阪神淡路と東日本大震災という…

地域衰退☆

なぜ、地域の衰退は起こるのか。ごく単純に言えば「雇用があれば人は定住」(P151)する。派手な観光開発や話題になりがちな景観保存などは「地域の屋台骨を支えるような雇用を生み出しはしない」(P152)と松山大学の市川虎彦の言葉を引用しているが、「まちづ…

新築がお好きですか?☆

「未来の住まい」を読んだ際に、「最近、住宅問題に注目する社会学者が増えている」と書いた。本書の著者である砂原庸介氏は政治学者である。本書では、日本における様々な法律や規範・慣習などの「制度」が、持家住宅の新築取得を中心とした「持家社会」を…

地域の景観・歴史を活かしたまちづくり

先月23日に、上記タイトルの講演会が開催された。日本建築学会東海支部研究集会シンポジウム。講師は、新潟大の岡崎篤行教授と、三重大の浅野聡教授。岡崎氏からは「新潟県の歴史・景観を活かしたまちづくり」と題して、新潟市を中心とした歴史的景観と活動…

未来の住まい☆

「一般社団法人 住総研」が創立70年を記念して「住宅研究のフロンティアはどこにあるのか」と題して開催したシンポジウムの記録である。第1章から第6章までは当日の発表者の内容を収録、第7章には司会進行をした祐成保志氏の寄稿が掲載されている。シンポジ…

地方の論理☆

筆者は北海道開発庁と国土庁で国の地方開発を担当し、その後、釧路公立大学で退官を迎えた。現在は北海道観光振興機構の会長を務め、道内の多くの審議会委員等も歴任している。略歴に「地域政策プランナー」と書かれているが、もともと法学部卒であり、上か…

内田樹のコレクティブ・ハウス論から考える弱者をベースにしたコモンの構想

内田樹の「コモンの再生」を読んでいる。なぜ今、内田樹がコモンということを言い出したのか、興味があった。これを読みつつ思い出したのが、かつて内田樹が「コレクティブ・ハウスを強く否定していた」ことである。それで内田樹のブログ「内田樹の研究室」…

孤立する都市、つながる街

○都市生活における最も深刻な「孤立」という課題を、社会福祉の専門的な取り組みや行政サービスの拡大だけでなく、個人の価値観の転換を促す対話、小さなコミュニティや場づくりの蓄積、シビックエコノミーの創出の可能性と併せて解いていこうとする、まった…

昨年読んだ「すまい・まちづくり本」ベスト5

去年は12冊しか読まなかった。妻の病気などもあり、なかなか落ち着いて本を読んでいる心境にならなかった。今年から始める予定の新しい仕事への準備をしていたこともある。それでも平山洋介の本が2冊も発行されたことはよかった。読んだ冊数は少ないが、例年…

新しいフェーズへ

「仮住まい」と戦後日本☆

「マイホームの彼方に」は、日本の住宅政策を網羅的に俯瞰し、その結果と現状を分析・提示し、「成長後の社会」における住宅政策の転換の必要性と方向を明確に示した好著だった。それからわずか半年、さらに本書が刊行された。前著は日本の住宅政策を体系的…

サステイナビリティの終焉と建築の役割

最近、テレビでよく放送されることの一つに「SDG’s」がある。「持続可能な開発目標」と訳される。CMでもよく流され、「環境に配慮した企業です」とアピールしている。正直、胡散臭いと思っている。まるで「錦の御旗」のようだ。「SDG’s」と唱えれば、どれだ…

経済学で考える 人口減少時代の住宅土地問題

都市住宅学会は、建築や都市計画だけでなく、法学や経済学、社会学などの異なる専門領域の研究者も参加し、都市・住宅に係る諸課題について学際的・総合的に研究を進める場として設立された。そこで、その機関紙には、建築系以外の専門家の論文もよく掲載さ…

日本住居史☆

来年の春から、某大学でハウジング論の講義をしてほしいと依頼があった。それで少し前からそのための準備をしている。日本の住宅事情や住宅政策についてはそれなりに知識と経験もあるが、住宅史については興味に沿って何冊か本を読んだ位で、体系的な知識を…

縮減時代の新たな地域マネジメント 「直観に従う勇気」を持つこと

内田樹の講演を聞いてきた。神戸女学院大学名誉教授にして思想家。内田氏の本はこれまで、「現代思想のパフォーマンス」や「ためらいの倫理学」などの初期の頃から読んできた。最近は少し食傷気味な感もあるが、やはり来名するからには行かずばなるまい。友…

名古屋栄に「ヒサヤオオドオリパーク」がオープン

しばらく工事が進められてきた名古屋栄地区の久屋大通公園が先月18日、リニューアル・オープンした。たまたま当日、名古屋へ行く機会があったので、ついでに寄ってきた。時間はちょうどお昼時。だが、天候はあいにくの小雨模様。それでも久しぶりにオープン…

伊東豊雄 美しい建築に人は集まる

平凡社「のこす言葉 KOKORO BOOKLET」シリーズの1冊。先に詠んだ「藤森輝信 建築が人にはたらきかけること」に続いて、今度は伊東豊雄が語る。 伊東豊雄は外観的にはすごく若く見えるが、来年には80歳になる。藤森輝信よりも5歳。隈研吾と比べれば、一回り以…

藤森照信 建築が人にはたらきかけること

大きさもB6変型判(17.6cm)。ページ数もわずか128ページ。あっという間に読み終えてしまった。「のこす言葉 KOKORO BOOKLET」シリーズの中の一冊。既刊を見ると、金子兜太、大林信彦、安野光雄、中川李枝子など。建築家は藤森照信だけ(その後、「伊藤豊雄…

マイホームの彼方に☆

「あとがき」でも書かれているが、神戸大名誉教授の早川和男先生が一昨年の7月に亡くなった。平山氏は早川先生直系の後継者として、一貫して住宅問題・住宅政策への研究を進めている。前著「都市の条件」から早や8年。久しぶりの新刊はタイトルこそやや軽い…

不動産で知る日本のこれから

空き家問題やマンション問題など、最近、不動産関係で興味深い本を何冊も執筆している牧野氏だが、そうした活動から様々な媒体で執筆依頼を受けることも増えたのだろう。本書は筆者が「文春オンライン」で連載していたものをまとめたものである。1編5ページ…

希望の名古屋圏は可能か

本書の中の一節を執筆した知人からいただいたものの、大部であることから途中で挫折し、しばらく積読状態にあった。コロナ禍で図書館が休館となり、再度、最初から読み始め、ようやく読み終えた。名古屋市立大学大学院経済学研究科の教員や同窓会有志による…

団地へのまなざし

埼玉県草加市の松原団地をフィールドにして、団地のローカル・ネットワークを中心に調査・研究した論文である。筆者は松原団地に隣接する獨協大学に勤務する社会学者で、中でも社会情報学を専攻している。本書はいくつかの研究論文を再構成したものだが、第1…

日本列島回復論☆

非常に興味深く、実現性のある提案だと感じた。「日本列島回復論」というタイトルは、田中角栄の「日本列島改造論」を念頭につけられたものだ。 田中角栄内閣以降に形づくられていった土建国家モデルは、地方への雇用機会の提供と都市部の中間所得層に対する…

菱野団地の連棟式住宅、ナニコレ珍百景に登録!

昨年11月に「黒川紀章が設計したニュータウン・菱野団地」で報告したように、菱野団地を見学した。この時に、原山台の連棟式住宅が左右で全く違った外観に増改築されている状況があまりにすごかったので、「『ナニコレ珍百景』に投稿したいほどの景観」と書…