世界の空き家対策

 このところ、米山秀隆氏の空き家対策に関する本を続けて読んできた。日本の空き家問題とその対策を考える一方で、海外ではどうなっているのか、という疑問を持っていたが、さすが米山氏、しっかりと海外事例についても調査し、まとめられている。本書では米山氏は編者として日本の空き家問題と対策について記述し、他に5氏から、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、韓国の実態と対策が報告されている。
 下記にも少し引用したが、これら5ヶ国においても、事情は違いこそすれ、しっかりと空き家対策が進められている。不動産流通システムの確立と不動産登記制度により、公民連携した空き家の再生・活用が進められている「アメリカ」。「ドイツ」では地域課題と連携したエリア再生に向けた包括的な取組が紹介されている。空き家税から無主空き家の公共団体帰属制度まである「フランス」の総合的な空き家政策。そして「イギリス」では、空き家問題よりも新築促進が課題となっているというのも興味深い。
 これらの国々に共通するのは、不動産登記制度が義務化され、機能していること。未登記土地もあるが、それらを登記化する取り組みもしっかりと進められている。また、住宅需要が高い中で、空き家活用施策が進められ、需要がない地域では、環境問題・社会問題としての取り組み(撤去や改善など)が進められている。日本の場合、登記制度の問題が大きなネックとしてあるが、加えて、空き家の活用・再生がやたらと目標になり、実際には再生困難な地域、静かな撤退が必要とされる地域においても、無駄に空き家対策(例えば空家バンクなど)が推進されているような気がする。
 これについては、先日聴いた、都市住宅学会大会(名古屋)でのシンポジウムやWSでの議論が刺激となっている。次はそれらの様子について報告したい。

世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

世界の空き家対策: 公民連携による不動産活用とエリア再生

アメリカの住宅市場では、住宅や居住地域などが多様な所得水準や社会階層に対応しており、所得や地位の向上に合わせて住み替えが頻繁に行われるが、1990年以降にそのような状況を支える不動産流通システムが確立された。……しっかりと維持・管理された住宅はその内容に応じて高価格で売却できる建物評価手法が普及しているため、……消費者の間では、新築住宅にこだわらず、既存住宅をリモデリングし、住宅の価値を高めながら住み替えを続けていくライフスタイルが定着している。(P43)
〇ドイツの一部の州では、住宅監視法に基づいて居住不適格宣言を出したり、所有者に対して修繕や近代化などの命令や罰金の徴収ができる。このような強力な法律が制定されたのは、移民や貧困層の社会問題と、放棄不動産による地域環境の悪化の問題を総合的に解決するためである。/空き家の問題を地域の環境問題や社会問題と結びつけて包括的に解決する取り組みは、日本でも重要と考える。(P108)
〇フランスでは、空き家政策として多様な手段がある。空き家税は、居住可能な空き家の所有者への課税である。徴発は、居住可能な空き家についての強制的手法による利用権設定である。一時的住宅契約は、居住可能な空き家について、契約的手法で利用権設定を行うものである。これらに加え、……所有者が不動産を放棄していると認定して公共団体が取得する明白放置財産収用制度や……不動産が無主であると判定して公共団体に所有権を帰属させる無主財産市町村帰属制度もある。以上に加えて、……建物管理不全対策として、崩壊危険建物制度、衛生危険建物制度も整備されている。(P120)
〇イギリス政府は現在、新築住宅の供給体制づくりを進めており、……「2020年代半ばまで、住宅供給を平均で30万戸に引き上げる」……としている。/市場規模はともかく、イギリスでは新築住宅戸数が問題化しており……「空き家再利用から新築へ」の流れが見られる。……イングランドにおける長期空き家戸数は現在減少しており、空き家の最大の問題は、「利用可能な住宅が利用されていないこと」であり……「空き家をいかに市場に戻すか」にある。(P152)