郡上八幡と大鍬宿の空き家対策

 都市住宅学会中部支部の講演会に行ってきた。テーマは中山間地の空き家対策。岐阜県郡上市郡上八幡瑞浪市大湫町のまちづくりについて話を聞いた。
 最初は、「一般財団法人 郡上八幡産業振興公社」専務の武藤さんから、「郡上八幡のまちづくりと空き家対策」について。郡上八幡といえば、徹夜で踊り明かす郡上踊りで有名だが、湧水などを引き込んだ水のある町並み、雲海に聳える天空の城・郡上八幡城など、近年は通年の観光地として賑わっている。だが、現在の町は、大正8年に大火があり、その後復興してできた町並みなのだそうだ。その後、昭和52年以降は、街並環境整備事業を始めとする中心市街地の整備を進め、平成3年には岐阜県高山市に次いで2番目となる景観条例の制定、平成24年には郡上八幡北町が伝統的建造物群保存地区の指定を受けるなど、町並みの保存・整備も着実に進められている。
 だが、観光客で賑わう一方で、人口減少、少子高齢化、空き家空き地の増大は収まらず、深刻な状況になっていた。そうした中、平成25年から空き家を活かしたまちづくりに取り組み、成果を挙げている。平成25年の時点で市街地に353件の空き家があったそうだが、郡上市として、「空き家対策に公共事業として取り組む」という方針の下、空き家プロジェクトを始動した。
 事業スキームとしては、空き家所有者から産業振興公社が物件を借り上げ、改修工事を行った上で、空き家利用者に貸し出す仕組み。10年間の家賃差額で工事費等を回収する計画だが、初期投資費用は郡上市が負担する。産業振興公社は改修工事だけでなく、入居者募集や選定、家賃徴収等の業務も行う。平成28年度末時点で、14件の賃貸、お試し町家が2件、セルフビルドによる入居が1件の計17件。さらに1棟貸しの宿泊施設が2件、公社で買い上げて複合施設として運営している物件が2件となっており、現時点ではさらに増えているとのこと。また、こうした取り組みが波及して、民間で独自に空き家活用する物件も増えてきていると成果を語っていた。ちなみに、公社で取り扱う物件は、原則、市内での移住者は対象としない(ただし、市内居住者でも新規に起業する場合はOK)、また改修工事を行うことといった一定の条件を付けている。
 入居者を募集するにあたっては、年3~4回、空き家ツアーを実施するほか、改修した町家で様々なイベントなどを繰り広げる「町家オイデンナーレ」を毎年開催し、人気を集めている(「城下町トライフ」参照)。郡上八幡という観光地だからこそ成り立つ仕組みかもしれないが、こうした形で空き家活用が進んでいくのは非常にいいことだ。特に「公共事業で空き家対策」と言い切る姿勢がすばらしい。
 次の瑞浪市大湫町の取組は、大湫町コミュニティ推進協議会、区長会長、そして転入対策委員長の3人でお話しいただいた。大湫町は岐阜県瑞浪市の中でも北の端にある集落だが、かつては中山道47番目の宿場・大鍬宿として賑わい、皇女和宮降嫁の際には、この地で宿泊をしている。現在も緑豊かな山裾に2階の階高も高い広々とした感じの町家が並び、昔からの風情を残している。かつては700人以上の人口を数えたが、今は350人を切って半減以下。高齢化率も42%と高い。
 大湫町では昭和61年にコミュニティ推進協議会を設立し、宿保存委員会や自然保全委員会などの専門部会を設けて活動を進める他、大鍬例大祭には神輿や山車が練り歩くなど、地域の結束も堅く、大湫宿花の森公園の再整備にあたっては住民自らボランティアで整備を進めてきた。こうした土壌の上で、平成26年度には転入対策委員会を設置。空き家を活用した転入促進の取組を進めている。
 また平成24年度には、廃校となった旧大湫小学校を利用して転入してきた陶芸家らが作品を展示販売する廃校プロジェクトが行われた。これがきっかけとなり、転入対策委員会の活動もあって、平成24年以降、8世帯が転入され、さらに2世帯が住宅改修等を進めている。10世帯中、6世帯が陶芸家という点が特徴的だ。平成27年からは毎年、旧大湫小学校を中心に、陶芸作品や飲食ブースなどが出展する「田舎につくる手集合プロジェクト『オオクテ・ツクルテ』」を開催している。ちなみに、旧大湫小学校は現在、解体工事中だそうで、これらのイベントが今後どうなるか、心配ではある。
 また、平成26年2月の豪雪で庇が破損した3軒の町家のうち、登録有形文化財だった2軒について瑞浪市が寄付を受けて修復し、このうちの1軒が昨年1月、観光拠点施設「丸森」としてオープンした。またもう1軒の「新森」は瑞浪市が修復の上、飲食店等として活用する事業者を募集中。さらにもう1軒の「西森」(いずれも「森川」姓の方が所有する町家のため、「丸森」「新森」「西森」と使い分けている)については、昨年から「民間ワイワイプロジェクト西森川チーム」を立ち上げ、清掃・改修等の活動を始めた。また「米屋」と言われる町家は区長会で所有し、活用を始めている。
 こうした活動の結果、約150戸の集落の中で空き家は15軒と、瑞浪市の中でも空き家の少ない地区になったと言う。実は大湫町では昭和40年代末に、区長会で土地分譲を行い、一時的に人口が200人近く増加した時期があった。今回の転入促進の取組では、10件中、賃貸が6件、購入が4件だそうだ。報告の最後に「集落の永続性の確保」という言葉を使われたが、やはり賃貸では永続性という点では心許ない。地域の魅力に惹かれて転入するだけでなく、地域に溶け込み、永住してもらえる仕組みを考える必要があるのではないか。そのことを質疑応答の際に少し話させてもらった。
 2つの報告はいずれも興味深かった。大湫町のひな祭りは1ヶ月遅れの4月に行われるそうだ。その頃になったら是非一度、訪れようと思う。そして郡上八幡もまたこの夏にも是非行ってみたい。