人口減少時代の都市計画・まちづくり

 首都大学東京の饗庭教授の講演を聞いてきた。名工大のコミュニティ創成教育研究センターが主催するコミュニティ工学ワークショップの一つでテーマは「人口減少時代の都市計画・まちづくり」。饗庭先生は2014年に発行された「白熱講義 これからの日本に都市計画は必要ですか」で「都市はどのように縮小していくのでしょうか?」という一節を執筆し、スポンジ化する都市をいかにコントロールするか論じている。この文章に興味を惹かれたこともあり、今回の講演を楽しみに参加した。
 最初に「人口の読み方」という話があり、聴講者に学生も散見されたからか、1930年からの人口ピラミッドの推移から始められた。そして「人口減少は問題か?」という問いを立てて、「問題ではない」しかし「地域に偏在して問題が発生することもある」と答えた。人口が増えず、税収があがってこない状況の中で、「いかにうまく資源を分配するマネジメントをしていくか」が課題であり、きちんとコントロールしながら、前向きに「都市をたたむ」という発想が大事と、まずは主張する。
 では、人口減少化で都市はどのように変化するか。それは、都市が縮小することはなく、ところどころに希薄な地区が発生する「スポンジ化する都市」となると予測する。その理由として、農地解放を挙げられ、農地の細分化所有と土地所有権が強い日本ならではの状況と言われたのは少し興味深かった。
 さて、スポンジ化する都市では、市場化圧がない中で「ゆっくりと変わる」、土地は所有権の強い個人が所有するため「個人が変える」、零細土地が多く「小さな規模で変わる」、空き地化後の変化は、駐車場もあれば、住宅、住宅以外の用途など「様ざまなものに変わる」、そして変化する場所もランダム「あちこちで変わる」と、拡大期のスプロールと比較し、縮小期のスポンジ化の特徴を整理する。「やわらかくてしぶとい都市空間」というのは、一宅地ずつの部分は変わりやすいが、都市全体は変わらないことを表現している。治安やコミュニティ、社会インフラなども変わりにくいものの一つだ。
 それで、都市は「じわじわ」としか変わらない。今後は公的助成も難しくなるから、民間ベースの建替えや住替えの動きを中長期的にコントロールしていくしかない。スポンジの構造を生かした、現実的なシナリオをどう作って、都市に介入していくかが問われる。
 そこで、「やわらかくしぶとい都市におけるまちづくり」。講演では二つの事例が紹介された。一つは立川市で行われた「やぼろじ」という取組。ここでは、空き家に住みたいと言った卒業生と共に、空き家所有者に話を持ちかけ、改修費を含めて5年で約1000万円の費用を仲間数人で分担し、空き家を再生し活用している事例だ。5年というのは、所有者が「5年後には返してほしい」と言ったから。大したお金も使わず、その代わりに「人のつながり」と「余っている建物」を使った、というコメントは饗庭流だ。
 もう一つは、鶴岡市での空き家を活用したまちづくり計画の事例。こちらは鶴岡市役所からの依頼に基づき、住民参加方式で空き家活用の方策を検討したものだが、単に空き家を再利用するだけではなく、地域のまちづくりにつなげようとする試みが興味深い。空き家を「地域で使える拠点」や「道路・通路の整備」、「除雪置場」などに活用していくため、空き家バンク事業を行う「つるおかランドバンク」なる組織を立ち上げ、単なる売買の仲介ではなく、「生活しやすい環境づくりに生かすこと」を目的に、空き家の活用を進めている。具体的には、空き家を2軒除却して、奥の住宅に届く道路を新設。さらに奥の空き地には子育て世帯が入居して、小さな地区だが「空き家が2つ減って、1家族ふえ、使いやすくなった」。
 すなわち「都市をたたむ」イメージは、発生するスポンジの穴を使って、少しずつでも地域に役立つ民間や市民の取組を進める。一方で、全体は変わらないから、こうした動きがないエリアは低密化していく。こうした地区は安全規制等の「上からの都市計画」でカバーする。
 講演後に、「今進められている都市事業はどうしたらいいですか」という質問に対して、「今造っているものは、造るしかない。それでも困らないように、寄り添うようなサポートが必要なんです」という言葉が印象深かった。「寄り添うまちづくり」。また、「それでは空き地化のスピードと、個々の取組のスピードは合わない。空き地化がどんどん進んでしまうのではないか」という質問に対しても、「それはしょうがない」と答えていた。「地区の合意形成」についても、「考えない。意識していない」という回答。先日聞いた「エリアマネジメントから考える住宅・マンション・団地の再生」でも、地域の合意形成を期待する意見があったが、改めて意味がないなあと思った。また、饗庭氏の考えは、先日書いた「『計画的縮退』について」についても一つの答えを提供している。そう、積極的な「なりゆき縮退」の一つと言えるのではないかな。何はともあれ、饗庭先生の肩の力が抜けた感じがとてもいい。とても楽しい講演会だった。