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「ハイテク」な歴史建築

すまい・まちづくりノート

 筆者は半導体・物理学の研究者である。一方で根っからの古建築好きのようで、全国の伝統的な建築物を見て回っている。タイトルを見て私は純粋に、伝統的建築物に使われている現代にも通じる技術を解説する本だと思っていた。しかし上述のように筆者は建築の専門家ではない。よって、本書で語られる技術は全て、宮大工や瓦職人等からの「受け売り」である。もちろん宮大工や瓦職人を馬鹿にするつもりはない。本書で紹介される職人とは、西岡常一棟梁であったり、白鷹幸伯鍛冶であったりするわけで、彼らの言葉を否定することはできない。
 しかし、古代の技術が現代の技術に勝る、というのはやはり言い過ぎだと思う。その理由を現代の経済性や効率優先に求めるというのも、確かにそういう面はあるかもしれないが、一方で古代は経済性や効率に捉われない精神があったと断定するのは確かとはいえない。少なくとも研究者であるならば、なぜ古代は経済性や効率に捉われなかったのかという点を解明すべきである。
 また、一流の職人の技と作品を「絶対的に」信頼する、と明言するのも研究者的態度とは思われない。「信頼」、いやほとんど「信奉」だと思われるが、その余り、「棟梁が言うならそのとおりでしょう」と書くに至っては、やはり客観的に筆者自身の目で判断してほしいと思わざるを得ない。
 ということで、本書は、古建築好きがその趣味が高じて全国の古建築を見て回った記録として読まれるといい。古建築には我々が想像する以上に高度な技術が随所に使われていることは否定しないが、現代以上にハイテクである、または現代はローテクに堕してしまったとはけっして思わない。一般読者向けにこうした本が流布することはけっしていいこととは思えない。

「ハイテク」な歴史建築 (ベスト新書)

「ハイテク」な歴史建築 (ベスト新書)

○鉄や瓦に限らず、「現代人」の技術が「古代人」の技術にかなわない分野は少なくないのです。/なぜ、このようなことになるのでしょうか。/一言でいえば、それは、現代の技術が、現代社会が要求する「生産性」「経済性」「効率」にひたすら応えようとするからです。(P43)
出雲大社杵築大社)の創建については・・・「国を譲った」出雲国が巨大神殿の建立を求め、「国を譲られた(奪った)」大和朝廷がその要求に応じた、ということなのです。(P83)
○私も「学者」のはしくれですが、いつも職人を尊敬し、一流の職人の技と作品を絶対的に信頼し、「学者」と職人との間で見解の相違があった場合は、躊躇なく職人の見解に与します。「無責任なことをいっていても許される学者」と「実際に長い歴史に耐える物を作る職人」とでは勝負にならないと思っています。(P137)
錦帯橋の場合、海老崎棟梁の話では、アーチの下から見上げた時、この10センチメートルの違いが、アーチのカーブを美しく見せるということです。・・・祖父・粂次郎、父・奈良次郎に続き三代にわたって”錦帯橋一筋”の海老崎棟梁がいうからには、そうなのだと思います。(P225)
○その時代の権力者を含み、彼らに”仕事”をさせた人たちも「経済性」や「効率」などを考えることなく、後世に遺せるほんとうによいものを職人たちに求めたのです。・・・私は本書を通じ、このような職人たちに心からの敬意を表したいと思います。(P234)