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「さしがね」や「墨壷」って見たことあるだろうか?

 公益財団法人「竹中大工道具館」の赤尾館長の講演を聞く機会があった。テーマは「大工道具の歴史とものつくり」。新神戸駅隣に立地する「竹中大工道具館」は建築関係者なら一度は訪ねておきたいところ。建築士会の会報誌「建築士」でも昨年6月から12月にかけて、赤尾氏による連載「大工道具とものつくりの心」が掲載されていた。鋸(のこぎり)、鑿(のみ)、かんな、さしがね、墨壷など、様々な大工道具一式と西洋・中国との比較。大工道具館で展示されている唐招提寺金堂の木組みの実物大模型や組立てCGの紹介、木割・規矩の実際など、様々な内容で1時間半。飽きさせない話で終始した。
 日本のさしがねの裏目にはルート2(1.414…)が刻印されており、裏目と表目を使い分けることにより、木材の断面を正方形から八角形まで作図できるといった話が興味深かったが、そう言えば、今の若い人は「さしがね」ってわかるだろうか、「墨壷」も実物は見たことがあるのかなと疑問に思った。
 自分のことを言えば、たまたま実家が自営で建設業を営んでいたので、これらの道具も一応は一揃いあったが、建築が主ではなかったので、使っている場面を見ることはそんなに多くはなかった。大学や就職後は工事現場でたまに見かけるくらいで、手元にはない。たまたまその夜に、建築学科を卒業した若い女性と会う機会があり、見たことがあるか聞いたところ、彼女は「お父さんが日曜大工を趣味にしているので家にあるけど、他の人はどうかな?」という返事。
 家で娘に「玄翁の両端は一方が平らで、片方は丸くなっているのは知っているか」と尋ねたら、「技術家庭科の授業で聞いた」という返事。なるほど。鑿や鉋も実物を見たり触ったりするのは学校くらいで、今は建築現場でも使う機会は少ない。木造住宅も今や木材はほとんどプレカット工場で刻まれて搬入され、現場では組立てを行うだけということも少なくない。釘打ちもほとんど釘打機を使うので、昔のように口に釘を含んで、なんて姿は見られない。
 そう考えると、大工道具も消え行く運命なのかなあ。だが講演でも、手道具を経て電動工具へ行かないと、きちんとした仕事はできないと言っていた。日本の大工仕事は中国や欧米に比べて格段に緻密で精妙だけれども、次第にそんな建物もできなくなっていくのかもしれない。一方で、消費者の側はますます細かくなっている昨今。近年の建築トラブル多発の一因は大工道具の変化といったところにもあるのかもしれない。