解決!空き家問題

 「解決!空き家問題」というタイトルだけど、「空き家問題はこれで解決!」といった秘策を披露しているわけではない。除却と活用。これを一つひとつの住宅について実施していくしかない。除却しても土地は残るわけだから、結局、誰かに譲らない限り、空き家の問題は絶対に手を離れることはない。また、自治体や国全体にとっても空き家問題は人口・世帯が減少する限り、常に発生し続ける問題である。
 第1章では副題「現状と発生のメカニズム」とあるとおり、その要因について分析するが、登記制度の不備などの根本的な問題もあって、その解決は難しい。本書では、空き家が「ある」ことと、空き家に「なる」ことは別のフェーズと指摘し、空き家に「しない」方策について考えていく。
 筆者は住宅情報誌の編集者を長く務めてきた方で、住宅政策等の研究者などではない。現場で多くの活用事例や地域の活動などを取材するなかで蓄えた知識や情報を紹介する。第4章から第6章にかけて、都市部から地方都市、農村・過疎地に至るまで、それぞれの取組を紹介しているが、例えば尾道市でのNPOの取組など既に多くのメディアで紹介されているものも多いし、民間での様々な取組事例は面白いが、真似ができるものでもない。
 ただ重要なのは、空き家所有者、若しくは予備軍(相続予定など)の方たちには、空き家を漫然と所有し老朽化させるのではなく、多くの可能性に満ちていることをよく知って、自ら活用するか、できなければ第三者に管理や利用を委ねるなどの責任をもった行動をしていただくことだ。もっとも誰もがこうした行動を取れるわけではない。となると結局、筆者が指摘するように、日本の登記制度の問題に落ち着くのかもしれない。所有者情報を行政がしっかりと把握し、管理についても日頃から目を光らせるような施策がこれからは求められるようになる。空き家特措法ではまったく不十分だ。
 本書にはこうした問題提起もあるけれど、空き家の楽しい活用事例が多く載っている。これですべて解決!とは行かないが、空き家には可能性がある。空き家に「しない」方策を考えてみたい。

解決!空き家問題 (ちくま新書)

解決!空き家問題 (ちくま新書)

○多くの日本人は住宅は古くなると価値が落ちると思い込んでいる。だが、法定耐用年数は税務用に作られたもので、年数が経つごとに税負担が軽減される仕組みで、そのモノの価値が下がるという意味ではない。・・・特に自己居住用の住宅に関しては本来事業用の1.5倍となっているにも関わらず、耐用年数表には事業用の記載しかないため、木造住宅は22年(本当は33年)、鉄骨鉄筋コンクリート造は47年(本当は70年)という誤解も受け、本来よりも短い期間で価値ゼロとされてしまうという憂き目も見ている。(P029)
○空き家を相続したくない場合には相続放棄という手段があるが、・・・民法239条2項は、所有者のない不動産は国庫に帰属するとしている。・・・さて、そこでである。国はその不動産が国のモノになったことを知っているのかという疑問が沸く。相続を放棄した人がそれを国に報告する義務はない・・・家庭裁判所(も)・・・相続放棄を決定するものの、その結果について他の省庁に連絡する義務はない。(P049)
○取材であちこちの街の、活性化を中心とした集まり、イベントなどに参加すると、いろいろな業種の人がいる中で、不動産会社だけがいないということは多々ある。・・・最近は公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会が・・・地域の空き家を活用することでそのエリアの活性化に繋がる仕事をしている大阪府大阪市阿倍野区の丸順不動産を「タウンマネジメントこそ、地域不動産会社が生きる道」として紹介するなど、地域との繋がりに目が向けられるようになってきている。(P100)
○最近では銭湯の昼間をデイサービスに使うような、空いている時間、曜日だけ空間を貸すというビジネスも生まれている。いずれ使うかもしれないが、現在は空いているという家であれば、一日だけ、一週間だけというような形で貸すのも家に風を通す意味で有効かもしれない。また、家全体ではなく、軒先、庭先だけを貸すことも可能となってきており、立地などにもよるが、家の使い方は一般の人が思っている以上に自由になってきている。(P133)
○今後の空き家問題を考える上でのキーワードを2つ、挙げておきたい。ひとつは愛情である。・・・もうひとつは連携である。空き家は個別性が高く、何かひとつの施策ですべての問題が氷解するような問題ではない。数も多い。上手に活用し、社会の役に立ってもらうためには行政と民間、住宅政策と福祉政策、宅地と農地など、様々な主体が連携し、情報を共有していく必要がある。(P249)