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限界マンション

 日本で空き家問題研究の嚆矢といったら筆者を置いていない。空き家関係でいつくかの著書(例えば「空き家急増の真実」)があるし、昨年は筆者が講師となった講演会「空き家対策と活用促進」を聴きに行った。最近は牧野知弘「空き家問題」や長島修「『空き家』が蝕む日本」など不動産業界から空き家問題について提言する専門家が増えてきた。またマンション問題についても昨年、牧野知弘「2020年マンション大崩壊」が出版され、警鐘を鳴らした。彼らに比べ米山氏は富士通総研経済研究所の研究員という立場から、より学術的かつ政策的にこの問題を捉え、提言をしている印象がある。
 分譲マンションの区分所有方式という点にそもそも問題があることは既に随分前からわかっていたことだ。昨年発生した横浜マンションの杭問題でマンションの抱える問題が露わになった部分もある。だがまだ多くの人にはその本当の問題点が理解されていないし、自分だけはババを引くことはないと思い込んでいる。思い込もうとしている。
 現在の老朽マンション施策は建て替えが中心となっている。しかしそれだけでは限りがあるし、何より建て替えはあまりにハードルが高い。そこで筆者が提言するのが、区分所有権の解消だ。日本でも一昨年のマンション建て替え円滑化法で耐震性が不足するマンションについて区分所有権の解消が可能となった。だがまだマンション一般に適用されたわけではない。すべてのマンションについて区分所有権が権利者の相当数の賛成により可能となる仕組みの法制化が求められる。
 本書で筆者が提言するもう一つの視点は、区分所有方式のマンションに代わるその他の方式の提案である。何も目新しいことはない。定借マンションやつくば方式によるSIマンション、そして証券化による賃貸マンションの供給だ。しかしいずれもまだまだ普及してこない。数十年後のことを考える煩わしさが要因だろうか。筆者は普及のための政策的誘導の必要性を主張する。
 最終章は空き家問題全般にわたって最新のデータ等によりその現状と施策の状況などを紹介する。マンションとの関係で考えるのは除却費への支援である。分譲マンションにおいてもまずは除却の部分で大きな問題を抱える。筆者はモラルハザードを心配するが、どうなんだろう。いずれにせよ建物除却をどう考えるかが人口減少時代の住宅・都市問題にとって大きな課題となるのは間違いない。

限界マンション ―次に来る空き家問題

限界マンション ―次に来る空き家問題

○定借マンションでは土地を保有するのではなく、自分が生きている間その土地の利用権を確保するという形になる。自分が生きている間の住まいが確保できるのであればそれで十分と考えるのなら、定借マンションは有力な選択肢となり得る。言い換えれば、分譲マンションを購入してその土地にマンションを建て替え続けることで、子孫にも住まわせたいというようなこだわりがない限り、定借マンションは分譲マンションよりも合理的な選択といえる。(P040)
○分譲マンションは、都心部で区分所有という形で手軽に持ち家を取得する手段として浸透していった。・・・マンション供給者には、分譲マンションは賃貸マンションと異なり早期に資金を回収できる上、分譲してしまえば以後の関わりを基本的に絶つことができるというメリットがあった。・・・現在では分譲マンションの仕組みは必ずしも合理的なものであるとはいえなくなっている(P060)
○日本では建て替えを行うために、区分所有者も行政もいくつもの難しい問題に直面しているのが現状となっている。/そもそも同じ場所に建て替えようとすること自体に無理があり、建物の寿命が尽きたら、個々に別のところに移り住むのは自然なことである。寿命が尽きたマンションは取り壊され、周辺街区とも併せ、その時代にあった適切な土地利用がなされるのがふさわしい。(P114)
○老朽化し、もはや取り壊すしか選択がないと多数が考えた場合、建て替えを行うのではなく、区分所有権を解消し土地を売却するという方向が、マンション法制で積極的に予定されていれば、そのほうがむしろ合理的に処理できる可能性がある。(P118)
○空き家除却(への)公費投入にはモラルハザードの問題がある。最初からそうした支援を受けられるとわかっていたら、誰も自己負担で除却しなくなる。行政としては、あくまでも自主的な除却を原則とし、公費投入は地域や物件の事情によって、ぎりぎりのところで踏み切るというスタンスで臨む必要がある。・・・この辺は、自治体にとって知恵の絞りどころとなる。(P194)