「見える化」と「緑をつなぐ」がコンセプト 愛知総合工科高校

 名古屋の東山公園から道路を挟んで北側、かつて東山工業高校があった場所で今、愛知総合工科高校の建設が進められている。既に足場は撤去され、植栽工事などが真っ只中。今年4月開校の予定だ。
 東山工業高校と愛知工業高校を合併して愛知総合工科高校になる。学科は機械・電気・建設・化学・デザインの5科だが、さらに2年間の専攻科を設置して、機械・電気系の課程を学ぶことができるようにしている。生徒数は全部で1280名。専攻科は2学年2学級80名の少数精鋭だ。
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 完成が間近くなって現場見学会が開催されたので参加した。少し前に現場の前を通った知人が「まだ足場があるみたいだけど間に合うのかな」と言っていた。その理由は何となくわかる。外壁の手すり部分にネットフェンスが張られ、それが足場のように見える。でもそれが完成形なのだ。当日は地下鉄「星ヶ丘」の駅から道路の反対側に渡り、外観を眺めつつ歩道橋を渡って南側の歩道を歩いて現地へ近付いていった。
 まだ敷地の周囲に仮囲いが設置されていて、その内側でアプローチ部分の舗装等の工事や植栽工事が行われていた。ネットフェンス状の手すりには工事用の電気ボックスが設置されていて、確かにこれは足場のように見える。しかしこのネットフェンスは壁面植栽用だ。久米設計による設計コンセプトには「(1)社会へものづくり学校をアピールできるよう建物を東山通沿いに配置します」とし、「建物を低層に抑えて圧迫感を軽減するとともに、東山通沿いにコミュニケーションプラザと植栽帯を配置して周辺環境との調和を図ります」「東山公園平和公園の『みどり』をつなぐように敷地内に緑地を配置します」と書かれている。
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 延床面積は30,407m2。非常に大きな施設だが、これを1棟にまとめている。1・2階に職員室などの管理部門が入る東棟を南北に、裏E字型に北・南・中央の校舎が左右に伸び、また3棟の校舎を王の字にコネクトモールがつなぐ。中央棟は南北に幅が広く、階数も低くて屋上は何層かに分かれてデッキになっている。
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 構造的には東棟と校舎棟はエキスパンションで分かれているが、複雑な形状の校舎棟は一体の構造。柱、床、階段と多くの構造材でプレストレストのプレキャスト部材を使用し、工場製作を多くして工期の短縮と高品質を実現している。また現場打設のコンクリートは高強度のものを多く使用し、そのまま打ち放し仕上げとしている。
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 もう一つの設計コンセプトは「ものづくりの学校にふさわしく、建物の構造を隠すことなく見せます」ということで、構造体だけでなく、設備機器や配管配線もほとんどがそのまま「見える」ようになっている。分電盤や電気室内のキュービクルもシースルー素材を用いることで廊下から内部がよく見える。シースルーのエレベーターとその隣に配置されたEPSも丸見えだ。
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 これは各教室にも徹底されており、天井はなくてPCデッキが丸見え。設備配管やダクトもそのまま見せている。また壁や床も仕上げなし。ただ床は高強度コンクリートを使用しているせいで、ヘアクラックが入って補修に手間取ったようだし、廊下の床はコンクリート強度の違いが色となって現れてしまい、これもやや気になる。それらも含めて、現場の苦労が「見える化」されていると思えばいいのだが。
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 こうした仕上げはいかにも工業高校らしい硬派なイメージを与えるが、中央棟の階数が低く、屋上が木デッキとなっているため、教室はけっこう明るい。またステージ状の階段や屋上緑化があり、各棟をつなぐ吹き抜けのコネクトモールもあって、学年を超えた交流を生む仕掛けが施されている。また随所に黒板があるのも面白い。見学の記念に多くのコメントが書き込まれていた。
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 ベランダに設置されたプランターの蔦はまだ数十センチしか伸びていない。これらが手すりのネットフェンスに絡みつき、学校全体を覆う頃にはどんな雰囲気になっているだろうか。外観ももちろんだが、生徒たちが生き生きと学び、遊び、交流する姿が見られることだろう。早くそんな姿を見てみたい。
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 この学校は東日本大震災後の建設費高騰の影響を受け、入札不調を繰り返し、その結果、開校が1年遅れてしまった。その意味でもみんなが待ち焦がれた学校がようやく完成する。そしてこれまでの概念を打ち破った新しいスタイルの学校として誕生することだろう。