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街道を抱く木の学び舎 亀山市関中学校

建築アルバム

 東海道47番目の宿場は三重県亀山市の関宿だ。もう10年近くも前に町並みを歩いて(「東海道・関宿・土山宿」)以来、行っていない。街道から程近いところに亀山市関中学校があり、5年ほど前に建て替えられた。機会があり、校内を見学させてもらった。
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 最初にいただいた資料の表紙を飾っている写真が印象的だ。まるで関宿の町並みがそのまま再現されたような景観。北棟と南棟に挟まれて歪曲して延びる中庭の先には、建物の屋根の上から背景の小山が見える。とても中学校には思えなかった。当初のプロポーザルの際に提示された課題は、「木の温もり」と「将来を見通した施設配置」、そして「関中学校の学校像」という自由度の高いもの。これに応募・採用された石本建築事務所が掲げたテーマが「街道を抱く木の学び舎」。この当初案のコンセプトを最後まで貫徹し、すばらしい施設ができあがった。
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 北から西側に湾曲して各学年の教室が連なる校舎棟を配置。街道状の中庭を挟んで南側に管理部門多目的ホールで構成される南棟が配置されている。中庭につながる昇降口は鉄骨造とガラス張りで透明性が高く、街道門を通って宿場に入っていくイメージを作っている。通り抜けた東側には既設の体育館があるが、将来的に体育館が建替えられるときには、その南北に特別教室棟を建設し、街道状の中庭を伸ばして一周することが計画されている。
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 構造は木造。三井住商建材(株)の大規模木構造接合工法であるサミット工法を採用し、大断面の集成材をラーメン構造で組み上げて作っている。特徴的なのは多目的ホールに伸びる8本の杉磨き丸太で、設計段階から地元林業関係者によって伐採・乾燥され、施工業者が決定後に引き渡され使用された。内外装はほとんど木質で、床、壁、柱、梁とふんだんに県産材が使用されている。木材は下地材も含めて全て国産材。県産材の使用率も5割近い。
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 学校の規模は小さい。各学年は2クラスで、規模の小さな特別支援教室が3部屋。これらが中庭に沿ったワークスペースに面して並び、各学年の教室の間には更衣室があるが、お互い自由に行き来ができ、一体感がある。南棟には給食時に生徒一同が集まる多目的ホールがあり、その西側は書架が並ぶメディアセンターとなっている。また、南棟の一角には少人数教室が2室と、障害児や問題児を落ち着かせるための小規模なクール室・リソース室がある。設計時の教頭が障害児教育に明るく、これらの部屋を整備したが、木質の内装のせいか、子供たちのストレスも少なく、これまで利用されたことは少ないと聞いた。
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 屋根の軒先瓦の先端の鏡の部分に一つ一つ違う文字が刻印されている。生徒たちが作成した型を使って一枚一枚違う軒先瓦を製造し使用している。施工中は生徒たちによる見学会や重機写生大会も開かれた。見学時には生徒一斉で掃除が行われていたが、長い廊下を雑巾掛けする姿も見られ、日頃から木と触れ合うことで、学校は生徒たちにとって愛着の深いものとなっている。また、近くの保育園児が散歩に中庭を訪れたり、多目的ホールや中庭で地域に開放されたトワイライトコンサートや講演会なども開催されている。地域に開かれた施設なのだ。
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 設備としては、多目的ホールに深夜電力を利用した土壌蓄熱式床暖房を採用。休み明けにも快適な環境を提供するとともに、天井が高い各教室は風通しがよく、夏の暑い時期も快適に過ごすことができると言う。また、関宿の商家を模した厨子(2階部分の高窓)から光が差し込み、北側採光とともに常に安定した明るさを確保している。ちなみに2階へはエレベーターも設置されている。
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 まるで関宿の街道の中にあるような中庭の景観に驚いたが、考えてみれば南側をワークスペースにして教室を北側採光にしたのも画期的。小規模校ゆえに可能となった部分も多いとは思うが、非常に快適な教育環境を提供し、かつ愛郷心を育てている。多目的ホールにそびえる8本の丸太のように、関中学校の生徒たちもきっと伸びやかにすくすくと成長することだろう。いい学校を見せてもらった。