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中部の都市を探る

すまい・まちづくりノート

 筆者の一人、中部大の大塚教授からいただいた。しばらくツンドクを続けていたが、ようやく読み始めた。読んでみるとけっこう面白い。全部で20名の執筆陣が様々なテーマで中部圏、そして名古屋を読み解く。地理学、都市計画、交通政策、経済学、建築史など専門は様々。大御所から若手研究者まで執筆者は幅広い。
 全体を、「まちのなりたち・まちをまもる<都市の基盤・建築・防災>」、「まちのちから・まちのかお<都市の産業・経済・関門>」、「まちづくり・まちのすまい<都市の生活・文化・社会>」、「まちのたのしみ・まちをあるく<都市の魅力・再発見>」の4つに分けて、それぞれ専門的テーマを設定して論文を掲載している。各章の間には「コラム」と称して、より即地的なエピソードが掲載されている。
 面白かったのは、まずは「【都心づくりの方向】魅力ある名古屋の都心づくりへの複眼的指向」における名古屋の見方。尾張藩の役割と照らして、リニア開通後の名古屋のあり方を示唆する。執筆は竹内伝史先生。三重県における情報基盤整備や浜松市における市町村合併とその後の自治体運営の実態なども興味深い。
 第2章の産業・経済論におけるNAGOYAの位置付けも興味深い。この場合のNAGOYAは名古屋を含んだより広域な名古屋圏を言う。林上先生の中部圏の都市構造に関する解説はわかりやすい。また亀山市の変遷はまさに現在進行形の事態であり興味が沸く。
 第3章は、磯辺先生のバリアフリー事業の検証や林先生の焼き物の歴史と都市空間の解説がわかりやすく面白い。また、大塚先生は春日井市勝川駅前を取り上げ、郊外駅前居住について研究している。今後の都市居住のあり方が伺え、興味深い。
 最終章は、観光都市論など。単なる観光ではなく、観光を含んだ都市づくり・地域経営を考える視点が重要だ。地域探検ゲームを紹介する東氏の論文や納屋橋を中心にまちあるきの楽しさを伝える井村氏の文章が楽しかった。
 それぞれ、独自のテーマで名古屋圏を語っているが、全体として名古屋・中部圏に対する愛情を強く感じる。一方で地域の特長を生かした取組みはまだまだ不十分。楽しく、無理せず、地域を楽しみ、元気にしたい。改めて中部圏の活力を再認識した。

中部の都市を探る―その軌跡と明日へのまなざし

中部の都市を探る―その軌跡と明日へのまなざし

●御三家筆頭の尾張は、他の紀伊、水戸のように将軍を輩出することはなかった。しかし終始一貫自立的な副将軍的権威を維持しており、江戸将軍家の存続を全うするための機構というよりも、その行動をチェックする機構内的拮抗勢力であったことがわかる。・・・このことは、今日、中部圏の主都としての名古屋のあり様を考える時、重視しすぎることはない。名古屋は江戸の西への「固め」であると同時に、江戸の潜在的対抗勢力の位置にもあったのである。(P13)
●NAGOYAは、日本有数の製造業企業発祥の地である。だが、これらの多くの企業は実質的な本社機能をTOKYOに配置している。しかし、市場がグローバル化し、海外との取引が増加するに従い、本社機能をTOKYOに立地させる意義は、弱まりつつあるように思われる。・・・本社の地方移転は、製造部門と管理部門の連携強化策であると同時に、首都圏でのオフィスコスト削減策にもなりうる。・・・生産機能のみならず、本社機能、研究開発機能をNAGOYAあるいは中部圏に集積させることができれば、NAGOYAは真の意味での「産業と技術の中枢圏域」となるであろう。(P101)
●郊外駅前居住は、次の3つの点で少子高齢社会、環境共生社会における新しいライフスタイルを実現する居住形態であるといえる。/まず第1に、郊外駅前は「終の棲家」となりうる居住空間である。・・・第2に、郊外駅前は都心居住ニーズの受け皿となり得る居住空間である。・・・第3に、郊外駅前は多様な選択的行動を可能にする居住空間である。・・・公共交通と自動車交通の利便性を兼ね備えていることから、多様なライフスタイルの実現を求める人々の居住空間として選択されている。(P203)
●商業機能を計画的に導入することは難しく、若手新規商業者のビジネスの場として活用できるような仕組みができれば、継続的な商業空間の維持は可能となる。そうなれば、駅周辺地区の生活拠点としての再生の可能性は高まるであろう。/また、駅前再開発事業を機に駅周辺地区が生活拠点として再生するかどうかは、持続可能なコミュニティが形成されるかどうかにもかかっている。・・・人々が集まれる場所を確保し、新旧住民による新しいコミュニティを形成していくためのソフトな仕掛けづくりが求められる。(P205)
●2014年3月、名古屋市は『Greater Nagoya Metrovision~名古屋大都市圏成長ビジョン~』を策定した。・・・同ビジョン26頁には、「当圏域は、住環境や通勤など様々な面で生活環境にゆとりがあるとともに、観光地や豊かな自然に近接しており、首都圏や関西圏と異なるライフスタイルがあると言えます。さらに歴史や文化、『なごやめし』に代表される独特な食文化など地域資源も多くみられ、こうした特徴を名古屋のライフスタイルイメージとして定着させるとともに、外国人や女性をはじめあらゆる人々が住みやすい圏域として『ナゴヤブランド』を確立・発信することを目指します」とある。/このビジョンは、NAGOYAがものづくりから離れないことを高らかに宣言した上で、「住んでよし訪れてよし」の魅力を「ナゴヤブランド」として定義づけている。(P255)