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私的空間と公共性

 和歌山大の山田先生には2009年に名古屋で開催された都市住宅学会全国大会でのワークショップでお会いしたことがある。その際、先生は「土地・住宅の公共性と公的管理」というタイトルで報告をされたが、リーマンショック後の不況がまだ続いている中で、住宅問題を市場の外・内の全体で見て対応することの必要性を指摘された。また、建築不自由の原則について、特に景観への関心の高まりなどから注目している旨の発言があった。(その時の様子は「公共住宅の課題と再生」をごらんください)
 そして本書はそのワークショップから間もない2010年夏に発行されている。先日図書館で初めてそのことに気づいてさっそく借りて読んでみた。「『資本論』から現代をみる」という副題がついているように、私的空間に対する社会的規制の根拠や可能性を「資本論」の視点から現代の状況に適用し読み解いていく。
 第1部は「土地空間の経済理論」として、土地が他の一般財と異なる特殊性を整理し、その経済理論を再確認する。「使用価値」「社会的共通消費手段」「社会的共同消費手段」「社会資本」「差額地代」「独占地代」「社会的欲望と支払能力」「利用独占」「所有独占」など、経済学的タームが頻出し、正直言って何が書かれているのかところどころでよくわからなくなってくる。だから全く理解したとは言えない。理解できなかったという方が正しい。
 それでも、土地空間に公共性があり、公的介入に必然性があるという経済的な理論を粘り強く構築しているのは心強い。第2部「空間形成と公共性」では、都市膨張の時代、その後のコンパクトシティ論に代表される都市構造再編が叫ばれる現代、そして景観形成と公共性、さらには都市と農村の関係を考察する中で、土地空間の公共性の実態を見ていく。
 中でも、なぜ欧米でフローが重視される経済発展の時代にストック性の高い空間を保全する「建築不自由の原則」が実現したのかを追及していく考察は面白い。また、都市と農村の対立をあえて「分離」することで融合と協働が始まったというイギリスの都市農村政策への視線も鋭く興味深い。
 それにしても経済学を齧っていない者にはかなり難しかったかな。また直接、山田先生から話を伺うと理解度が深まるかもしれない。そんな機会が作れるといいなと思う。

私的空間と公共性―『資本論』から現代をみる

私的空間と公共性―『資本論』から現代をみる

●住宅はそれ自体を取り出せば指摘排他的な消費手段である。また、市場に任せてもそれなりに供給できる可能性を持った使用価値=商品であり実際にもそうである。しかし、戦争や不況によって、住宅を調達できない貧困層が多くなったりすると、住宅不足が社会の維持・再生産に深刻な影響を及ぼすことになる。・・・このような場合、必要な住宅の供給は公共性を持つ課題と社会的に認識・合意され、それを根拠として国家や自治体また非営利組織による住宅供給が政策的に推進されることにもなる。(P59)
●経済発展があればストック性が破壊され、経済発展がなければストック性は実現できない。これは明らかに矛盾である。しかし、解決不可能な矛盾ではなさそうである。欧米の少なくない国々において、概して戦後の経済発展と都市空間の高ストック性とを両立させてきたという事実が、なによりもこのことを示している(P71)
●一般的にいえば、使用価値的に見てすぐれた建造物は、価格的にも高い。さらに、そのような周辺環境が持続的・安定的であるほど、価格もそれだけ維持される。つまり資産性が高い。所有者にとって、使用価値的な保全が自らの経済的利益につながる関係がそこにある。「建築不自由の原則」の確立は、こうした関係を、ある私的で閉ざされた特別な空間においてではなく、社会一般において生み出すための前提および結果として機能させることになった。・・・重要なことは、自らの生活環境の保全や資産性の維持という私的利害の実現において、こうした一見二律背反的な原則がむしろ合理的な選択肢として提起されるような状況を、この段階の社会経済的発展が準備したことであり、懸命にもこれらの社会がこの道を選択したことなのである。(P74)
●個々の空間を超えた集合空間のあり方が実践の対象となるにつれて、単なる個別空間の集合体であったものが単一の全体としての属性を有する使用価値、すなわちひとつの社会的共通消費手段に転化するということである。都市空間の「共同」性・公共性が意識されるのは、こうした状況の生成を前提とする。その意味で、それは決してア・プリオリなものではなく、歴史的で社会的な変化なのである。(P133)
●イギリスの歴史が示すように、農業・農村の保護政策の発展、またこれと関連した空間の「分離」に基づく空間形成政策の発展は、「対立」関係にあった「労」と「農」の合意形成に基づく・・・目的意識的管理の国民国家レベルでの発揚であった。そしてその背景には・・・田園環境の保全に対する強い社会的意識の存在があった。言い換えれば、レクリエーションなどを介して人口の空間移動が盛んになること、その結果都市から見て農村が、農村から見て都市が、自らの生活空間の次第に重要な一部になってくるという事情が「対立」緩和政策発展の背景にある。(P153)