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縮小都市の挑戦

すまい・まちづくりノート

 空き家の増加が問題となっている。しかし序章「縮小都市の時代」では、縮小を新たな都市発展の方向として見直す見方を提起する。都市に散在する「空き」を「持続可能な縮小都市」を実現するための「資源」として活用できないかと考える。そうした視点でデトロイトトリノ都市政策を俯瞰する。
 本書の大部分は、デトロイトトリノ都市政策の紹介である。ただし両都市の取組みは筆者によれば非常に対照的だという。民間主導で空き空間に協働の起業スペースや都市農業の勃興など、自生的・自発的な都市再生への取組みが始まりつつあるデトロイト。これに対して、トリノではかつてトリノ成長の核であったフィアットが撤退した後、フィアット以前のトリノが持っていたアイデンティティを活かした都市再生、いわゆる「トリノの再位置化」が市政府主導により取り組まれている。
 その際に重視されるのは「都市イメージ」である。フィアットによるフォーディズムの灰色の町から、バロック建築の街並み、ザヴォイア家の財宝、300年のカフェの歴史、スイーツとフレンチ風イタリアンなど、歴史・文化・伝統・自然の豊かな「都市の質」をアピールする。また、空きスペースを活用し、中央背骨地帯で積極的に再開発を進めていく。その際にはEUの構造基金支援を最大限に活用した。こうした結果、トリノはまた再び大きく立ち上がろうとしている。
 第3章では視点を日本に戻し、具体的な施策を提案する。第1項「パラダイムを転換する」では、都市間競争を煽るのではなく、都市同士の連携・協働、新しい「間柄」の構築を提案する。また第2項「集約型都市構造を形成する」ではゲデスによる「中心地システム論」を踏まえ、都市の序列化と施設配置を提案する。福知山に地域共通資本としての大学誘致をというのだが、ん?それはどうかな? 都市圏で税の再配分制度の提案も面白いが実現は難しそうだ。第3項「空洞化した都市を甦らせる」では、地域個別資産として「ストア」ではなく「ショップ」に注目する。それはよくわかる。最後に再度、「都市間競争ではなく、都市間協働/連携」を強調して終わる。
 縮小による「空き」を活かして成長につながる「都市のかたち」を作っていこうと視点は非常に面白い。だが本書でそれを具体的に提案できているかといえば、そうは言えない。やはりまだまだ縮小都市の成長の道は厳しそうだ。できれば明るく縮小を受け入れ、そしてそれを発展につなげていきたい。そんな縮小都市はないものか。

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

縮小都市の挑戦 (岩波新書)

●エッセンの国際会議では、「もっと小さく再成長する都市」がキャッチフレーズになっていた。縮小が「都市発展」の新たな方向性になる、という趣旨である。ここで問いかけられていたことは・・・小さくなることによって環境を改善し、生活の質を向上できれば、それは立派に都市が「成長し、発展している」ことになる、という社会思想である。(P10)
●都市の縮小力を望ましい「都市の「かたち」」を達成する方向で活用できないだろうか、というのが縮小都市政策である。・・・縮小都市では、「空き」が顕在化する。空き家や荒廃地、廃校など物理的、建築的な「空き」にとどまらず、人間関係が希薄する。ハード/ソフトの「空き」である。成長時代の資産が不良資産化し「空き」として表出する。しかし、縮小都市論では、「空き」を「負債」とは捉えない。「持続可能な縮小都市の「かたち」」を実現するために、「空き」を有用な資源として活用することができる、と考えている。(P16)
●都市ブランディング戦略に積極的に取り組む都市政府の行政は、ケインズ主義的なフォーディズム型都市経営に対し、起業主義的都市経営と呼ばれる。市域外から人々や資本を引き付ける、当該都市市民に対して「我が町」に自負を抱かせる、そして可能性を自覚させることのできる魅力的な「都市イメージ」を形成する。そうした「都市イメージ」を内外に売り込む。都市マーケティングの道具としては、イベントやメディア対策が駆使される。(P160)
●「場の創造」で重要なキーワードは、Light(軽妙に)、Quick(素早く)、Cheap(手軽に)の頭文字から取って「LQC」である。・・・「LQC」の考え方は、「プランからプロジェクトへ」というまちづくり運動の精神像にも通じている。プランは、都市政府がデベロッパーや金融資本と結託して都市の大きな将来像を描き、それに合わせて「都市空間」を弄りまわす方法である。・・・それに対してプロジェクトは、現場発を基本として小さな改善を積み重ねる方法である。コミュニティの人々が変化を肌身に感じ、希望を持って自主的に改善のプロジェクトに参加する。参加を通じてコミュニティに対する誇りを育む。それがコミュニティに依拠するプロジェクトの考え方である。(P168)
●ショップには、職人仕事が残っている。それを活かす地域商業政策や地方都市政策は、ショップ系店舗と農林水産業、中小製造業が新たな地域の産業組織を形成することを促す方向に向かわなければならない。・・・ショップ系の小売店舗を地区に集積させれば、買い回り商店街を立派に形成することができる。全国どこの店舗でも同じ商品を並べている郊外型大型店に対抗できるはずである。(P259)