サービス付き高齢者向け住宅は「住宅」なのか、「施設」なのか

 先日、サービス付き高齢者向け住宅を調査した名古屋大学のM生、Hさんの発表を聞く機会があった。昨年5月時点で登録されていた愛知県内のサービス付き高齢者向け住宅174件5994戸を対象に、立地や家賃・サービス料、住宅の形態(専用設備の状況)などを変数にクラスター分析を行い、9類型4タイプに分類。タイプ別に10事例について現地調査を行った結果を報告したものだ。
 全体的には25m2未満の設備共用タイプの住宅が多いとか、食事などのサービスも提供しているところがほとんどだとか、全体的な傾向はこれまでの同様な調査でも明らかにされている。今回の報告で興味深かったのは、外出の自由度が低い住宅が多いことを明らかにした点だ。
 彼女の研究では、立地と住宅の形態に着目して、大きく生活の便利/不便と、施設型/住宅型の4つに分類している。このうち施設型が約7割を占め、住宅型は3割となっている。この場合の住宅型とは、住戸内に専用の浴室や台所を有している住宅をいう。台所が住戸内にない施設型の多くは食堂で食事を取る形が多い。すると食堂で提供される食事時間が決まっており、その時間に食堂へ出て行かなくてはならない。
 さらに、夜間外出についても門限があったり、昼間であっても外出時にはスタッフへの声掛けを義務付けている例も多い。10事例のうち4事例が住宅型だが、そのうちの1事例では声掛けが必要としている。またこれは間取りにも現れており、施設型では玄関に面して受付があることが多い。住宅型では玄関でスタッフの存在を感じさせない工夫がされているものもあるが、総じて見守られ感が強い。共用居間や食堂も住戸と別の階にあれば、他の入居者と顔を合わさずに外出することも可能だが、各階に居間や食堂があれば常に監視されているような気がする。そして運営者の側は、入居者の家族の要望に応えてこうした配置や管理にしていると答えている。
 彼女の研究では、自立的な生活ができないことを「問題」と捉え、その要因として「制度の影響」が大きいとしている。確かに、住宅施策側からみればそういう捉え方になるのかもしれないが、実際にはサービス付き高齢者向け住宅は「住宅」という名前が付いているものの、入居者、特に入居者の家族には「施設」として捉えられ、建設・運営されている実態がある。まさにその実態を浮き彫りにした研究と言える。
 共同住宅では市街化調整区域に建設できないが、有料老人ホームの届出をすれば社会福祉施設として市街化調整区域での立地が可能になる。面積に関わらず戸当たり100万円の補助をしているから、住戸面積は最小限を狙うようになる。経営上、介護保険からの収入が不可欠なことが施設化に拍車をかける。これらの課題を指摘し、「立地制限」、「設備基準の強化」、「補助基準の見直し」、「サービスの簡素化」等を提案されたが、実態は全くそういう方向に向いていない。
 彼女の提案の中で興味深かったのは、「バリアフリー基準の見直し」だ。既存の共同住宅が「廊下幅の規定が満足しない」ことから改修利用が見送られているという実態に対して、サービス付き高齢者向け住宅の供給拡大を図るのであれば、既存活用はもっと検討されていい。サ高住が「住宅」であれば、「車椅子利用ができない等の事前説明を義務付けることで足りる」という意見はわからないでもない。ただし、あくまでもサ高住が「住宅」であればという条件付きだ。現状、サ高住が「施設」の一つとして利用され、期待されている状況はどうすれば正すことができるのだろうか。それとも正す必要はないのだろうか。