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リニアで名古屋が変わる

まち遊び日記

 住宅金融支援機構東海支店の講演会があったので参加した。講師は明治大学専門職大学院長の市川宏雄氏。講演のタイトルは「リニアが日本を改造する本当の理由~リニアで名古屋が変わる」。リニア中央新幹線開業による名古屋圏への影響について様々な資料を元に語った。
 リニア開通により名古屋と東京がわずか40分で結ばれることにより、300Km離れた空間が一体化。人口5000万人を超える巨大な大都市圏が出現すると見るべきだと言う。話はリニア新駅の現状を一つひとつ説明していくことから始まる。品川駅についてはJR東日本が積極的にまちづくりを進めようとしている。また、羽田空港の国際化により、わずか10分で羽田空港とつながる品川駅のポテンシャルはこれまで以上に高くなると指摘する。これに対して、相模原、山梨、飯田、中津川の各駅については、JR東海が開発に乗り出す動きは全くなく、地元自治体の対応もかなり差があるようだ。また山梨駅は中央高速道路のスマートICと連絡する立地にあり、これまでの鉄道駅とは異なった駅整備となっている。こうした中で名古屋駅も、名鉄等と連携した駅整備や、名古屋駅周辺のまちづくり構想は検討されているが、それだけでなく、栄や周辺都市との役割分担など、名古屋都市圏全体の都市構造の再編についても検討を始めるべきだと提言する。
 これら各駅個別の整備構想はさておき、リニア新幹線によって、商業・サービス・金融業が強い首都圏と製造業に特に強みを持つ中京圏が一体となることにより、バランスの取れたリニア都市圏が形成されることになるとその効果を評価する。
 現在、首都圏から福岡まで、西日本国土軸上に日本全体の72%を超える人口が集中しているそうだが、これがさらに2030年には8割近くが集中することになる。この時、福岡は近隣アジア諸国との窓口となるが、中京圏以東は東京を中心に、名古屋と仙台を両翼に抱える一大都市圏として世界に伍していくことになる。「リニアが日本を改造する」という意味はそういうことだ。
 次にリニア開通に伴い、名古屋で何が起きるかを考察する。まず、こうした交通インフラの整備に伴い必ず懸念の声が挙がるストロー現象について。市川氏は、九州新幹線の開通に伴い、鹿児島県内の経済波及効果と県外での消費増加額を比較した鹿児島地域経済研究所の報告を引いて、懸念することはないと力説された。似たもの同士の地域が結ばれれば一極化の恐れもあるが、首都圏と中京圏のようにそれぞれ異なるところに強みを持つ地域同士であれば、一部の競合する分野で衰退することは当然あっても、全体としてはストロー現象は起きない。これは仙台でも同様で、東北新幹線開通により、首都圏のマネーが流れ込み、都市開発が促進されたと言う。
 特に中京圏は製造業が強く、土地価格も低いため、首都圏からさらに工業が移転集積する可能性が高く、併せて住民移動も発生する。時間距離的には、東京の郊外として、八王子などと競合する位置関係になり、東京からのあふれ出しをいかに吸収するかが課題となる。現在、新幹線定期は浜松までしか販売されていない。これを名古屋駅まで拡大し、企業も通勤補助の対象としていくことが条件となるが、東京の通勤圏内の都市として、東京マーケットを分析し、東京テイストに合わせた魅力ある地域づくりが勝負となるかもしれない。
 また、セントレアが首都圏の飛行場の一つとして位置付けられる。逆に名古屋からは羽田空港が同じ位置付けとなる。そして、人の流れはリニア、物流は新東名高速道路、航空はセントレアといった役割分担の下、製造業の立地が増加していく。
 ちなみにJR東海はリニアを東海道新幹線のバイパスと位置付けており、料金も現行の「のぞみ」よりもわずかに700円高いだけとしている。十分、それで元が取れると試算をしている。ひょっとしたら、リニア開通後に東海道新幹線を大改修し、「ひかり」「こだま」だけの運行に切り替えていくのかもしれないと予想を語った。航空会社も最近はリニアと競うのではなく、リニアを利用することで国際線利用者が増えることの効果を期待するようになりつつあるそうだ。
 なお、名古屋以西については、JR東海としての経済的メリットは小さく、完成時期も2045年と、東京・名古屋間に比べて距離が短いにもかかわらず、整備期間を長く取っている。もし整備するのであればかなりの程度、国策として推進していくことが必要であるが、現在は政府もそこまでの動きはないようだ。名古屋までの開通時期、2027年であれば日本の国力はまだ何とかなるが、2030年以降は高齢者が人口の半数を超える超高齢社会となり、国力も相当に衰えると予想される。これらの高齢者がいなくなる2040年までが日本にとって我慢の時期で、それを過ぎれば、また活気を取り戻していくと想像されるが、まずは2030年までにやりきることが必要だと言う。
 最後に、首都機能移転についての質問があった。市川氏は首都機能移転反対論者だったそうで、その種の著作もあるとのこと。実は前日のシンポジウムで名古屋市の河村市長が、防災危機管理対応の一環として、名古屋で臨時国会の開催を提言していたが、市川氏からも首都を移転するのではなく、一つの大都市圏の一部として首都機能を分担・代替するということは十分考えられるという回答があった。
 非常に前向きで刺激的な講演会だった。「東京五輪で日本はどこまで復活するか」という本も書いているらしい。未来に向けて楽観的になるためには、これらの著作も読んでみるといいかもしれない。原発PRと一緒でプラス面ばかりの話を聞いていた気もするが、たまにはこんな講演もいいかもしれない。夢と元気をもらった1時間半だった。