箱の産業

 前回の「場の産業」から遡って、「箱の産業」を読んだ。「箱の産業」の成立と成長を経済状況や時代状況から述べる本かと思っていたが、プレハブメーカー8社の創業時の住宅開発に関わった16名の人々に当時の状況を聞くインタビュー記事が並べられている。その間に編著者による論考が4編入る。各社それぞれの違いや成長の契機と過程が見られて面白い。
 取り上げられる住宅メーカーは全部で8社。大和ハウス工業積水ハウスパナホームミサワホーム旭化成積水化学工業トヨタホーム、そして今はなき永大産業。この中でもトップバッターなのは大和ハウスだ。ミゼットハウスの開発秘話、その前のパイプハウス、そしてダイワハウスA型。ネオポリスなど分譲住宅団地事業に取り組んでいく話も面白い。
 積水化学工業積水ハウス旭化成はいずれも戦前の日本最大の化学メーカー、日本窒素肥料から生まれた会社だ。積水ハウス積水化学工業の建材部門から生まれ、当初はプラスティックハウスという発想だったが、早い時期にプラスティックの構造体はあきらめ、鉄骨造にパネルという形になった。初期の不具合の多発からカラーベストを採用したという柔軟さも興味深い。
 独立していった積水ハウスに対して、積水化学工業に残された化学技術者たちが建築家・大野勝彦と出会い開発したのがセキスイハイムM1だ。また、旭化成は同じ日本窒素肥料から生まれた会社ながら、化学製品ではなくコンクリート建材の活用という観点から住宅産業界に乗り込んでいく。建材としてのACLを利用した一般建築とACLを利用した自社住宅へーベルハウスとの関係というのはなかなか微妙なようだ。
 パナホームも建材事業からの参入組だ。松下幸之助は戦後間もなくから住宅事業への熱い思いを抱いていた。その際の強い思いが不燃化だ。「木の家は燃える」というのは、大和ハウス工業創業者である石橋氏やトヨタグループの始祖である豊田佐吉氏も言っていた。他者からは遅れて参入したトヨタホームの場合は、自社グループの自動車製造技術を活かすという視点で開発を進めていった点が興味深い。
 木質パネル系ではミサワホーム永大産業である。創業者・三澤千代治の夢を現実にしていく過程は建築基準法38条認定や公庫の工場生産住宅承認制度への対応が大変だったことが紹介されている。永大産業は合板事業から参入したが、その後倒産し、建築技術者の多くは三井ホームに移籍していく。ツーバイフォー工法のオープン化の話が興味深い。
 それぞれ興味深い歴史が語られている。そして今でも新築住宅市場の場でお互い切磋琢磨を重ねている。一方で、建築は「場の産業」として新しい産業に変化しつつある。プレハブメーカーは今後どういう未来を考えているのか。リフォーム分野への参入などの動きも見られるようだが、プレハブ住宅が占める新築シェアは約15%に過ぎず、しかも漸減傾向にある。しかし本書で描かれるように日本の住宅産業に果たした役割は大きいし、この技術力や商品開発力を今後も活かさない手はないはずだ。今後のさらなる発展を期待したい。

●クボタハウスも、同じように大和ハウスの人間がアルバイトで設計を始めたんです。/今のサンヨーホームズですね。/だから、大和ハウスはプレハブ業界の色々なところへ人材を供給しているんですね。(P27)
●もともと住宅っていうのは一品一品が違っていたので、「そんなもの量産できるわけないやないか」という意見が強かった。だから、何とか生き延びられるのは、オーナーが熱心だったからです。・・・設立当初から大和ハウスという名前が付いています。設立時はまったく住宅はやっていなかったんですけど。ということは、よほど強い意志が当人にあったんですよ。(P54)
●僕はいつも言っているんです。「設計をすれば建築ができるわけやない」と。やっぱり、設計したものを現地に移す技術とかシステムとかが要るわけですよ。そういうものは、繰り返し生産の中で社会的に築かれて行くという自身は持っています。プレハブっていくら言っても、それがシステムとして成立しないと、結局駄目なんだって思っています。(P79)
●(松下)幸之助さんは、・・・家は燃えたらあかんちゅう思いがあったようです。「木造はあかん。燃えてしまう」と。・・・それは戦争体験なんでしょうね。・・・僕は大和ハウス石橋信夫さんの自宅によく伺いましたけど、幸之助さんと同じことを言う。「木の家はあかん。燃える」と。・・・創業者たちにはそういう信念があったんですね。(P102)
関東大震災直後、(豊田)佐吉さんは「木と紙の燃えやすい家はダメだ」と言ったそうです。(P198)
●枠は、プレス成型した部材をスポット溶接してつくる。自動車では普通の技術ですからね。だけど、それをボルト溶接したらとても計算には乗らない。ボルトの滑りがありますから。当時の自動車の強度はですね、「要するに実験で持ちゃいい」という感じ。実物で強度試験をやれますから、元の発想が違っていたんですね。(P206)
●鉄鋼系プレハブは構造計算は建築基準法でできるから、38条認定がいらないんですよ。公庫承認の時にも構造計算書はいらない。鉄骨構造が非常に商売に役立っているわけです。それに比べて、木質系は38条認定を取らなきゃ何もできない。ミサワさんでも永大でも、とにかく38条認定取るのに一年中追われていましたから、ちょっとハンデがありましたね。(P229)