愛知見守り大家さんの実態について

 公益社団法人愛知共同住宅協会は名古屋・豊田地域で賃貸住宅経営を行っている事業者が集まり、昭和52年に設立された団体だ。全国連合組織である公益社団法人全国賃貸住宅経営者協会連合会の下部組織でもあり、同種の地域組織としては、公益社団法人東京共同住宅協会と社団法人大阪賃貸住宅経営協会と並び、3団体しかない公益法人の一つでもある。会員数は約670名。規模は小さいが、熱心な弁護士さんも参加して、かなり良心的な活動を行っていると思っている。

 この協会が平成24年度から「見守り大家さん」という活動を始めた。平成24年度には、講演会や研修会を開催したほか、無料電話相談、ほのぼのエピソードの募集、ステッカー配布などを行うとともに、賃貸住宅経営者・管理者を対象にしたアンケート調査を実施した。先日、この調査に協力し、分析等を行った中京大の岡本先生から話を聞く機会があり参加した。

 アンケート調査は「あいち3000人の大家さんアンケート調査」と銘打ち、会員以外にも仲介業者や支援団体、建設会社、行政等の協力を得て、約3,300通を配布したが、なんと回答はわずかに173通。回答率5%。「正直、落ち込みました」と調査報告書にも書かれているが、ここまでの低回収率になった要因は何か、しっかり検証する必要があるかもしれない。岡本先生からもその理由はわからないということだった。

 報告は、居住をめぐる社会・経済的状況の変化などの総論から始まった。障害を抱える高齢者の増加、若年層の持家率の低迷から予測される将来的な高齢者借家層の増大、そして彼らを支える居住の場として、貧困ビジネスや脱法シェアハウスだけではない、人情あふれる見守り大家さんに期待する部分は大きいと語られた。

 暮らしを支える様々なインフラ、電気・ガス・水道、道路・鉄道、医療・教育・福祉、飲食・購買、就労、人とのつながりが日々の暮らしを支える中で、何より住まいがあることは最低限の生活資本の要となる。一方、社会の変化、生活の変化が進む中で、生活資本から落ちこぼれる人が現われ始めている。

 今回、回答をしていただいた方々はいわゆる「見守り大家さん」として、生活困窮者を下支えする重要な役割が期待される。アンケートから見える「見守り大家さん」の住まいの特徴を、愛知県全体の住宅・土地統計調査の民間賃貸住宅の集計と比較して分析をされた。

 2階・3階建ての低層集合住宅が中心で、戸数も15戸以下が65%を占める。構造は意外にRC造や鉄骨造が多く、家賃、築年数も県平均と大差ない。入居者は単身世帯が多く、「所有かつ管理」をしているものが半数を超える。「心配や困ったこと」として、「家賃滞納」「ゴミのマナー」「孤独死」「入居者間のトラブル」「ペットの飼育」等が挙げられている。生活保護者や単身女性などを入居制限している例もあるが、多くは家賃滞納などの不安を抱きつつ入居を受け入れている。家賃滞納に備え、民間債務保証会社を利用している者が3割近くあるが、その他は外部のサービスを利用した経験は少ない。普段から、「声掛け・挨拶」、「おすそ分け」等の「おせっかい」を焼いているという回答も多い。また大家さん自身が町内会の役員や民生委員、防災・防犯活動などに関わっている例も多い。

 以上の結果を大きく6つにまとめられた。(1)家賃滞納と近所迷惑が心配、(2)大家は居住支援の制度や団体を知らない、(3)おせっかいは見守りから生活支援まで幅広い、(4)店子の属性と不安にパターンがある、(5)大家は地域の先輩であり、地域資源から生活資本を引き出す力がある、(6)大家が期待する地域社会資源はソフトが中心。  その後の意見交換としては、「見守り大家さん」の実態についてはある程度想定内という印象。だが、回答を寄せた5%以外の賃貸住宅がどうなっているかが大いに興味があるし、問題も多そうだという点に集中した。95%の賃貸住宅経営者の多くは、管理は管理会社に丸投げし、経済的損失だけが関心と不安ではないかと思われる。しかしその種の調査はほとんど行われていないし、実態がわからない。特に昨今は民間賃貸住宅の空き家が増加している。

 住宅や生活に困窮する人々の支援において、「見守り大家さん」がその一部を担っている実態はわかった。一方で、「見守り大家さん」の活動に関わらない民間賃貸住宅がほとんどを占めている状況がある。かつその多くは空き家の増加という経営的課題に面している。格差の拡大、困窮者の増大という社会的状況の中で、今後、健全でゆとりある民間賃貸住宅事業をいかに誘導していくかが住宅政策における大きな課題の一つとなっていくだろう。しかしどうやって? まずはその実態を十分明らかにする必要があるようだ。