愛知県の高齢者居住安定確保政策の現状

 都市住宅学会中部支部公共住宅部会で愛知県の高齢者居住安定確保政策の現状について聴く機会があった。愛知県では平成24年3月に愛知県高齢者居住安定確保計画を策定しているが、その内容の説明とともに、計画策定とほぼ同時に開始されたサービス付き高齢者向け住宅の登録状況等について担当者から話を伺った。

 高齢者居住安定確保計画の根拠となる「高齢者の居住の安定確保に関する法律」いわゆる「高齢者住まい法」は平成13年に制定され、当初は高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)、高齢者円滑入居賃貸住宅(高円賃)、高齢者専用賃貸住宅(高専賃)を制度化するとともに、終身建物賃貸借制度などを定めていた。その後、平成21年に法が改正され、各都道府県は高齢者居住安定確保計画を定めることができるようになった。法改正直後は計画を策定する都道府県は少なかったが、平成23年にサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)が制度化されるとともに、各県で計画が策定されている。なお、平成23年の法改正で、高優賃、高円賃、高専賃はサービス付き(サ高住)に統合された。

 説明の前半では、愛知県の高齢者世帯の動向等の話があり、特に高齢単身世帯の持家率が低いことが指摘された。ただし、その要因はわからない。高齢夫婦世帯は85%が持家に居住する中で、単身世帯になると60%を下回るのは、生涯未婚者の割合だけでは説明がつかない。

 住宅のバリアフリー化の状況、虚弱化した時の住宅選択、市町村別の高齢化率と借家率などのデータを提示した後、5つの課題を挙げられた。(1)既存住宅のバリアフリー化の必要、(2)高齢者向け賃貸住宅の供給、(3)高齢者の入居を拒否しない賃貸住宅の増加、(4)高齢者の暮らしを支える社会システム、(5)地域の特性・事情に応じた対応の5点だ。その上で、計画の基本目標を「高齢者の望む暮らしにあった住まいを実現する」とし、高齢者向け賃貸住宅等の供給目標を掲げている。平成24年度から32年度までの9年間で、高齢者向け賃貸住宅(生活支援サービス付き)を約1万1千戸、老人ホーム等は「愛知県高齢者健康福祉計画により、要介護・要支援者の増加に対応した施設の増加をめざす」という内容だ。ちなみに、高齢者向け賃貸住宅等の供給目標量の推計方法は、平成32年度の高齢者数のうち、要介護・要支援・二次予防事業対象者を推計し、そこから借家に居住する単身・夫婦のみ世帯数を推計し算出している。

 また、計画の基本方針は、(1)既存住宅のバリアフリー化、(2)バリアフリー対応住宅の新規供給(①高齢者向け賃貸住宅(生活支援サービス付き)の供給、②新設住宅のバリアフリー化(持家・借家))、(3)安心できる入居・居住に対する支援(愛知県あんしん賃貸支援事業など)、(4)公的賃貸住宅での高齢者対応、(5)人にやさしい街づくりの推進、となっている。なお、愛知県あんしん賃貸支援事業は、高齢者等の入居を拒否しない住宅の登録と協力店、支援団体を登録する愛知県独自の制度だが、登録戸数はあまり伸びていないということだった。

 愛知県における「サ高住」の基準は、床面積が原則25m2以上(共用部分があれば18m2以上)としている他、安否確認及び生活相談サービスの提供など、国の基準と何ら変えていない。平成24年1月に本格的に登録を開始してから、平成25年5月末までの1年半弱で約128件4,264戸の登録がある。このうち名古屋市で52件1,644戸。その他は西尾市(人口約17万人)で熱心な不動産業者があり、18件562戸の登録があるが、その他の市ではあまり伸びていない。豊橋市豊田市といった人口が多い都市よりも名古屋市近郊の市で登録数が多い傾向がある。熱心な事業者の有無が登録数に影響しているようだ。また、全国資本の業者は名古屋市内での登録が多く、市外では地元事業者の登録が多い。医療法人や社会福祉法人等が事業者になる割合は少ないとのことでやや意外である。

 住宅の規模は20戸から44戸までが約7割、3階建てが全体の過半を占める。また居室面積も25m2未満のものが多く、最低居室面積が25m2未満のものが約75%となっている。また最低家賃は約7割が6万円未満、最高家賃では15万円を超えるものもあるが、6万円未満が約5割となっている。

 提供しているサービスは義務化されている「安否確認・生活相談」以外に、全ての登録住宅で「食事の提供」を行っている他、入浴介護や調理等の家事支援も7割近い住宅で提供されている。また、住宅に介護事務所等を併設するものが8割以上あり、複数以上の施設を併設しているものも多い。

 入居状況は必ずしも良いとは言えない。遊休地を活用し、従来の若年世帯向け賃貸住宅の代わりに建設するケースも多いようだが、事業的にどこまでペイしているかはわからない。「安否確認・生活相談」以外のサービス提供は老人ホームに該当するため、現時点ではすべてのサ高住が老人ホームということになる。いわゆる「みなし老人ホーム」。従来、老人ホームの建設には、県等の設置基準があり、厳しい指導が行われていたが、「サ高住」の登録を行うことで老人ホームの指導基準を逃れることができる。「質の低い老人施設が大量供給されている」という参加者の意見もあながち間違いではない。一方で、市場原理が働いていることも事実で、入居が必ずしも順調に増えていないという現状は、これまで愛知県内では一定規模の持家で生活してきた高齢者が相当数あることが影響していると思われる。

 厚労省にとっては、老人ホーム等の施設整備に対する補助を国交省でみなし老人ホームの整備支援をしてもらうことで軽減でき、本来の福祉サービスに重点化できるメリットがあっただろう。だが、国交省サイドの施策として「住宅と言う名の施設」を整備することはどうか。参加者から「行政で適正な規模・内容のモデルプランを作成・提示すべきではないか」という意見があったが、わからないでもない。ただし、既に動き始めてしまった後で、どれだけ効果があるだろうか。市場で低質な「サ高住」を駆逐できるよう、十分かつ的確な情報提供に努めるというのが必要な施策だろうか。もちろん、定期的な指導・監察も必要となろう。

 現在も全国で次々と建設が進められる「サ高住」だが、高齢者向け住宅施策はこれに尽きるわけではないし、今後は「サ高住」に係る問題も色々と発生しそうだ。高齢者居住安定確保計画も住生活基本計画と同様、5年後に改正するのだろうか。それまでに「サ高住」を始めとする高齢者向け住宅や施設の整備状況や高齢者の居住状況等を十分観察・分析し、施策の再検討を行う必要があるだろう。