住宅政策の未来?

 これまでもこのブログに書いてきたことのように思うが、いつ書いたか検索するのも面倒だし、最近思ったことということで改めて書き留めておきたい。

 しばらく前に、愛知県内のシルバーハウジングでLSA(生活援助員)を務める方たちや市町の福祉部局、LSA派遣元の社会福祉協議会などの担当者等が集まって意見交換をする機会があった。愛知県内を大きく3地域に分けて、住宅側からは建設・管理の担当者が参加した。日頃から直接、高齢者に会って生活援助等を行っている方や、高齢者福祉に責任を負う部局の方々の真剣で実直な意見は大いに参考になったし、心揺さぶられるものがあった。

 聞きながら同時に感じたのは、われわれ建築の専門家が高齢者福祉の実態を知り、その問題解決に取り組むには、知識・経験・能力などで遠く及ばないし、それらを彼らと同等まで習熟するのは困難だなという実感だ。やはり餅屋は餅屋で、任せるべきところ、対応すべきところ、すり合わせるべきところを見極めて対応していかざるを得ない。

 では住宅政策側で対応すべきことは何かと言うと、どのような仕組みで高齢者向け住宅を供給(・誘導)するのか、高齢者向け住宅の建築的仕様をどうするか、入居資格や家賃をどう設定するかなどが考えられる。

 入居者の高齢化に伴う地域活動の低下(コミュニティ問題)、孤独死の発生など管理開始後の入居者の変化に起因する課題に対して、住宅管理者がどこまで対応できるか、誰が対応すべきかというのは、住宅施策にとっては縦割りの狭間の課題であり、けっこう悩ましい(もちろん民間住宅であれば、それらを含めて住宅の商品価値とコストの問題として対応できる)。

 先日の意見交換会では、高齢者の生活に関する課題については、福祉部局や福祉の専門家におまかせするのが適当ではないか、住宅管理側としては、福祉対応と連携して住宅改修等や入居者の入退去等の部分で支援するというスタンスが現場も円滑に回るし高齢者にとっても望ましいという感触を持った。

 また先日は、郊外住宅団地の空き地や空き家問題について調査・研究している方の話を聞いた。空き地は、2台目の駐車場用地や家庭菜園の場として地域資源になりうるが、空き家は犯罪や火災の温床となり、景観上の問題や崩壊等による危険性など、地域に波及する問題となりうる。だが、まだ多くの住民や町内会長は問題として認識していない現状がある。住宅政策として取り組むべきではないかという話だ。

 ウン? 住宅政策? なぜ「住宅」? 用途によって問題点が変わるわけではないのだから、やはり建築政策として取り組むべきではないのか。また、地域の衰退や人口減少期における土地利用計画が問題なら、都市計画やまちづくりとして取り組むべき課題ではないのか。前者であれば、危険建築物の撤去指導、後者であれば空き家の活用促進や都市縮退の施策を検討すべきだ。地域的な問題ではなく全国的な問題として捉えるならば、今後、空き家がますます増加することは明らかなのだから、建築物の撤去を積極的に誘引する政策(税制など)を検討し講じていくことが必要だ。

 いや、住宅政策とは何かという話だ。

 さらには、先日読んだ平山洋介氏の「都市の条件」でも、住宅弱者対策が住宅政策の重要な柱であることは自明の事柄として論じられている。かつては住宅不足の解消を目的とした公営住宅も昨今は福祉住宅化しているし、かつて「石から人へ」と政策転換した欧米のように家賃補助制度に取り組むべきだという指摘はずいぶん昔からある。

 一方で、生活保護制度の中の住宅扶助や失職対策としての住宅手当が厚生労働省所管の政策として講じられている(財務省が減額を主張しているようだが)。これらを住宅政策として位置付け、公営住宅供給等と一体のものとして、より広範かつ体系的に取り組めというのが平山氏の主張であり、かつてから多くの論者が主張してきているところである。

 住宅政策とはいったい何だろう?

 戦後の住宅不足が解消し、住宅の広さなども一定程度は確保されるようになって、日本の住宅政策は迷走してしまった。住宅の量はまだしも質は欧米に比べればまだまだ低い、適正な規模と家賃の住宅の量はまだ不足しているなどの主張がされてきたし、高齢者・障碍者対応、環境への配慮、省エネ・ゼロエネ住宅、防犯性の確保、リフォーム詐欺等の消費者対策、住宅履歴の保存など、いったいどこまでが住宅政策かと思うほど、その範囲や対象は広くなっている。

 これが学問であれば、居住学、都市住宅学、建築学(または社会学)として認められるかどうかはそれぞれの学会で決めればいい。だが、政策の場合は、予算と人をどう配分するかという問題になる。それは一方で行政の組織論であり、例えば住宅局は厚生労働省の中に移すという方策は当然これまでも考えられてきただろうし、道路局は経産省へ、河川局は防災関連施策と一体にして内閣府(または防災省創設)ということも考えられないわけではない。

 建築を学んできた者としては、住宅政策はできれば住宅の物性に関わる領域であってほしい。それ以外の課題は、総合的政策として社会学や福祉の専門家などと連携して取り組むのはやぶさかではないが、住宅政策だけで背負い込むのは正直厳しい。  現在の状況は、種々多様な住宅に関わる課題に対応するにはあまりにヒト不足・カネ不足。現在は耐震改修にヒトとカネを投入している状況だが、これがひと段落すればヒト余りが起きるぞという声もあるが、その時にはいかにストックの質を高め、不要なストックを撤去するかが課題になるのではないか。何か「廃墟建築家」のような気分になってきた。いや、廃棄建築課だろうか。