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限界集落の真実

 「限界集落」という言葉が初めてマスコミで喧伝されたのは2007年のことだったそうだ。自民党が参院選で大敗し、地域間格差問題の象徴として取り上げられた。時に「自然消滅するような地域に税金を投入するのは無駄だ」という議論とともに。

 私としてはそういうイメージはあまりなかったが、その前に出向勤務していた足助町の状況を思い起こし、確かに高齢者ばかりの集落は消滅するのも間近かと思った記憶がある。  だが筆者の山下氏は、限界集落として消滅した集落は一つもないという。一方でしかし今、まさに危機的な状況が訪れつつあるとも。いったいどういうことか。つまりその意味は、2007年に総務省が公表した消滅集落のほとんどは挙家離村という形で戦略的に撤退しており、高齢者の死とともに消滅した事例はないということだ。

 しかし極端に高齢化が進行した集落も少なくない。そこは消滅しないのかと言えば、それもありうるが、問題は高齢化にあるのではなく少子化だと言う。過疎集落に残る高齢者には多くの場合、集落外の近郊都市に子供世帯が住み、頻繁に子供たちが帰ってくることが多い。彼らが集落に住むようになれば、例え高齢化率の高い集落であっても継続し存続する。  つまり限界集落は、世代間の地域住み分けの結果であり、これは日本の経済成長に適応するための合理的な居住選択の結果なのだ。

 後半の第4章から第6章まで、筆者がフィールドとしたいくつかの集落の調査結果や集落再生プログラムの事例が紹介されている。それらを読むと確かに限界集落であっても、いやだからこそ、地域を愛する住民によって主体的に集落活性化の取り組みが行われている。都市のコンサルタントや研究者により提供されたプログラムではなく、本当の意味で住民自身の主体的で愛郷心に満ちた取組が。

 発想点は「暮らし」である。経済や雇用が与えられるのを待つのではなく、自ら望む「暮らし」を手に入れるということ。そのためにはまず家族を第一に考えてみる。多くの場合その家族は集落に留まらず周辺に拡大して居住する。同様に集落も集落外に多くの集落構成員がいる。そうした家族や集落が中心となって、「暮らし」の安定を考える。

 筆者の問題意識は限界集落に留まらない。いや、集落こそ日本の問題を解決するための中心と考える。中心と周辺を取り出し、「周辺からは中心が見えるが、中心からは周辺が見えていない」と指摘する。そして周辺が見えない中心が、勝手な思い込みで周辺を裁き、破壊をする。それが市町村合併であり、コミュニティの崩壊である。「むら」こそ社会的主体の源泉であり、限界集落問題は主体喪失の危機である。

 周辺から考えること。集落の生きる力を中心に据えること。それこそが現在の日本の求められている唯一の解決策である。本書の最後の小見出しは「周辺発の日本社会論へ」。本書は単なる「限界集落」に関する本ではなく、日本の現代社会論でもある。非常に意欲的で興味深い本である。

●過疎問題の問題性はつねに、そこに生活している人々の現実とは無関係な場所から提起されてきた。そして今回の限界集落問題も、そうした外からの(外発的な)つくられた問題としての側面を強く持っているのである。(P35)
●地域の将来を決めるのは、他人ではなく、本人自らであるべきだ。個人に置き換えればすぐに分かる。「あなたが生きているのは世間にとって無駄なので、早いうちに亡くなってはいかがですか」。/「効率性の悪い地域は消えた方がよい」という議論は一見合理的に見えるが、いわば右のような発言と同じことを、ある特定の地域に対して言っているのである。(P138)
●過疎問題は特定の地域が頑張らなかったから落ち込んだという話ではない。日本社会が一体化していく過程で出てくる、大きな変化のうちに生じた現象である。・・・もともと状況変化に対する適応なのだから、崩壊には至らないはずだ。・・・そして実際に、過疎地域の家族構造や村落構造をのぞいてみるならば、そこには必ず人の回帰が仕組まれている。(P209)
●中心の側からは周辺が見えない。これに対し、周辺はすべてを見通している。沢田の住民は、最奥の位置にあって、相馬の中心市街地も、弘前も、あるいは先代も東京も、みんな見えている。ところが、相馬の人ですら、この沢田に行ったことがないという人もいる。中心は周辺を知らない。(P263)
●都市システムは、巨大化しすぎて個人の手が届くものではなくなっており、予想を越えたことが生じた場合には、個人を守るどころか、さらに個人に犠牲を強いるようなものでさえある。・・・これに対し、小さな地域社会(むら、町、小都市)ではまだ、生活システムは個人のコントロールの範囲の中にある。数人の力で人を動かし、社会を変えうる。このこともいま、震災の被災地で実証されつつあることだろう。(P276)