住まいの手帖

 「暮らしの手帖」をパクったタイトル。装丁も内容の雰囲気も似てるかもしれない。「都市住宅」や「GA HOUSES」など住宅・建築雑誌等の編集長を長く担当してきた植田実氏による上質のエッセイ集。月刊「みすず」に連載した60回分を掲載している。

 住宅の本にしては一切、写真も図面もついていない。簡潔すぎる文章だけで綴っていく。筆者の著作は「集合住宅物語」位しか読んでいないが、住宅や建築物に対する目は確かだし、愛情を感じる。

 3部構成になっているが、ほぼ連載時の順番と同じだという。確かに内容で分類した感じもあまりしないが、3部では街の構成要素としての住宅を取り上げたものが多いような気がする。「差別化がすなわち均一性」という日本の街並み景観の指摘はまさにそのとおり。「この作用がいつか途方もなく入り組んだ未知の都市風景にふいに逆転して、みなが名作建築より街そのものを見にやってくる日があるはずなのだが。」(P154)というのは何より強烈な皮肉か。  疲れたときに何気なく頁をくくるには最高の癒し系住宅エッセイだ。

●ピロティが現代のスタイルであるのは、地面の開放性というより、その場所から離れてどこにでも歩いていける脚の表現によるのだろう。集合住宅に似つかわしいゆえんである。現代の集合住宅は、世界中を歩き回っている。(P13)
●「水まわり」と一括して呼ばれる部屋はどの家でもよく知っている機器で構成されているのに、使い方、飾り方はそれぞれの家によってちがうし、よその家で借りるとなると細かいところまで目について、緊張ととまどいが生じる。それだけ身体に近いのだ。(P31)
●窓をつくるためには、まず壁をつくらなければならない。日本の住まいには、まだ壁もない。(P72)
●玄関ドアを一歩入った住戸内全体は、パジャマ化された空間なのである。(P87)
●できれば世界に唯一の自分の住まいを持ちたいという願望を、じつはだれもが等しく夢見ているという関係であり、それは住まいにとどまらず、公共建築や超高層ビルだって、差別化が均一性に呑みこまれていく制度は変わらない。・・・ようするにおしなべて好き勝手につくっていることの均一性が、北の端から南の果てまで貫徹しているために、この列島は奇妙に広く、奇妙に狭い。(P153)