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都市計画の世界史

 娘に「都市計画の本がない?」と聞かれて、学生時代、日笠端先生の「都市計画」を教科書として使ったことを思い出した。が、今となってはどこにあるのかわからない。結局、この本を図書館で借りてきてレポートを提出したらしい。返却が年明けになっていたので、それまで私も読んでみた。

 本書の存在は知っていたが、まるで教科書のようで読む気がしなかった。あとがきによれば、著者の慶應義塾大学での講義録をまとめたものということで、実際、教科書である。それがわずか1000円で購入できるのだ。改めて都市計画の歴史について勉強させてもらった。

 本書では古代から中世の都市を、「第1章 城壁の都市」「第2章 都市施設と都市住居」で取り上げ、第3章以降は、「格子割の都市」「バロックの都市」「社会改良主義の都市」「近代都市計画制度の都市」「メトロポリスとメガロポリス」に分けて記述している。概ね時代の流れに即してはいるが、当然、都市が時代に応じてガラリと変わるわけもなく、また日本の土地区画整理事業においていまだに格子割街路が主流を占めているように、これらは重なり合いつつ、現代の都市を形作っている。

 中でも「バロックの都市」が興味深い。オースマンの都市改造に代表される放射状道路を印象的に用いた都市計画に対して「バロックの都市」という呼称があることすら私は知らなかったが、確かに現代都市計画を経て、今もなお光り輝き愛される都市の形である。

 私が覚えているのはもちろん、「ハワードの田園都市」以降、A.ペリーの近隣計画論、ラドバーン計画やクルドサックなどである。ポート・サンライトやボーンヴィルなどの理想社会主義の工場都市は10数年前に中部大学の佐藤先生に教えられて初めて知ったし、イギリスのバイロー・ハウジングも三宅先生に教えてもらうまで知らなかった。そう考えると、学生時代の都市計画などほとんど勉強していなかったし、覚えてもいないことがよくわかる。

 また、ドイツのBプランやアメリカのゾーニング制の背景とそれらを教条的に当てはめた結果の日本の現状、市街地の改善と歴史的地区の保全、巨大都市圏の成長管理とエキュメノポリス論など、主だった都市計画の歴史と課題は余すことなく網羅されており、まさに都市計画の教科書にふさわしい内容になっている。都市計画に少しでも携わる専門家であれば、一家に一冊、備えておきたい本である(と言いつつ、今回、図書館で借りて済ませてしまったが…)。

●都市と都市計画の関わりは、経済社会の枠組みの変化とともに変質してきた。それぞれの時代の都市の経験や都市計画の知恵を次の世代が引き継いで発展させ、そこでも人々の生活経験が積み重ねられ、後世がそれを評価して体系づけてきたのが都市計画の歴史である。都市の設計と計画は安易な実験が許されないという点において、先行する経験が尊重され、継承される性質を持っている。(P16)
●格子割道路である広い大路の一部だけでなく、小路も住民などによって占拠され、宅地や耕地になり、これが「巷所」と呼ばれた。平安京の南端の東寺周辺に見られる巷所の多くは耕地化したもので、市民生活にとって広すぎる道路用地が農地に転換された。(P134)
●バロックの都市計画の社会性には問題があるとしても、ヨーロッパではバロック都市において、はじめて意識的な都市計画が行われ、バロック都市の様式は、近代都市計画のプロトタイプの一つともみなされている。しかも、生きた歴史文化の象徴となって人々から好まれ、輝いている世界の都市の一角にバロックの都市がある。その都市づくりの作法に現代都市計画が学ぶべきものがあるのではないか。(P161)
●規制の結果がさらに無秩序な街並みの形成につながる場合も起こりうる。わが国の都市のように、その大半の市街地がアメリカの都市のような幾何学的形状の都市基盤を持たない場合には、ゾーニングによる敷地単位の規制は必ずしも合理的に作用しない場合が発生するのである。(P293)