公営・URにおける外国人居住問題

 都市住宅学会中部支部公共住宅部会で、法政大学兼任講師・NPO法人かながわ外国人すまいサポートセンター理事の稲葉佳子さんから公営・URにおける外国人居住問題について話を伺った。先生は新宿区新大久保をフィールドに外国人居住問題について研究を重ねてきたが、最近は公営・URにおける問題についても全国的な事例研究などをされている。

 話は、「外国人居住問題は民間賃貸住宅における『人種差別』からはじまった」というスライドから始まった。1990年当時、大久保地区の不動産業者の9割が「外国人お断り」だったそうで、現在の状況を考えると20年前とは言え、全く違う状況だったのだ。入居制限の理由は、「言葉・習慣の違いから起きる入居後のトラブルを懸念して」というもので、外国人に対する漠然とした不安が理由だった。しかし今や大久保地区では、外国人を受け入れないと賃貸住宅経営ができない状況になっている。

 外国人居住に係る問題を、入居前の「入居差別」の問題と、入居後の「トラブル」に分けて考えると、前者はもっぱら民間賃貸住宅で起きている問題で、公営・URは原則として外国人に対して日本人と同等の入居資格を認めているため、公営・URでは起こりえない問題である。一方、後者については、民間賃貸住宅においては入居時に問題を起こしそうな外国人は入居拒否を行うことから、民間で問題になることは少なく、公営・URで顕著な問題として発生している。

 民間賃貸住宅の外国人入居者の選択についてはもう少していねいに分析しており、入居時資金が準備されていることはもちろん、日常会話程度の日本語力や日本の生活マナーを理解している外国人、さらに日本人の保証人を求めるケースが多く、結果的に民間賃貸住宅のトラブルが少ない傾向になっていると言う。

 公営・URの外国人の入居状況は1995年と比較して2010年には公営住宅全体で3.4倍、URでは実に10倍に増えているそうで、特に愛知県では入居戸数、入居率(管理戸数に対する)ともに高く、愛知県営住宅では8戸に1戸が外国人世帯となっている。  具体的な外国人居住に伴う問題として公営住宅管理者(地方自治体)が挙げるのは、生活面ではゴミ出し・不法投棄、屋内外での生活騒音、無断同居・転貸しなど、管理上では、日本語でコミュニケーションできない、回覧・通知文書が伝わらない、自治会活動への未参加、自治会費・共益費の未回収(公営住宅では共益費は自治会で徴収・支払っていることがほとんど)などが挙げられている。

 こうした状況に対して住宅管理者の側では、外国語版募集案内の作成や日本独特の生活マナーや決まりごとなどを伝える「住まいのしおり」の作成、団地内での多言語標記看板等の設置、募集時・トラブル発生時の通訳派遣などが行われている。

 入居時についてはこれらで対応するとして、日々の生活の中で発生する問題に対しては、多くの団地で自治会を中心とする取組みが行われている。稲葉先生からは公営・UR併せて10団地について、類型化してその取組みを紹介いただいた。

 事例1は、日本人自治会と外国人自治会の2つの自治会執行部を立ち上げた山梨県営住宅の事例。月1回は合同定例会を開き、お互いの調整を図っているそうだ。2つ目の事例は、生活ガイダンス事業に取り組む三重県の市営住宅の事例。ここでは住宅管理者である鈴鹿市NPOに委託し自治会活動を支援。外国人向けの生活ガイダンスや交流会を行っている。

 事例3は静岡県の県営・UR賃貸が並存する団地で、広域自治会が団地自治会を支援している事例。ここではカリスマ性のある地域自治会長が単位自治会を束ねるとともに、市に働きかけ、団地入口付近に多文化交流センターを整備。通学路途上にあるこの施設は、日本人・外国人分け隔てない子育てセンターとして機能していると言う。

 また同様に広域自治体が団地自治体を支援する三重県のUR団地では、国際共生サロンが設置され、URからは共生推進員、市からは推進コーディネーターが派遣され、生活支援等を行っているそうだ。さらに事例5として、行政と住宅管理者が多文化共生連絡会議を設置して自治会支援を行っている千葉県のUR団地の事例が紹介された。

 これらの活発に外国人支援活動が行われている団地に共通する特徴として、いずれも日本人入居者の年齢層が若いという点が挙げられる。また公営住宅とUR賃貸の違いとして、公営住宅では共用部分の管理のための共同作業や共益費の徴収が不可欠であるのに対して、UR賃貸ではこれらは外部委託されており、自治会業務となっていない。これがUR団地で自治会活動が低調になりがちな理由ではないかと指摘されていた。

 公営・UR賃貸における外国人居住問題の構図として4点を挙げられた。一つは、団地自治会と外国人居住者の関係。外国人には自治会活動の必要性がそもそも理解されていないことが多く、まずは自治会活動について理解し参加してもらうことが必要だ。

 2点目は派遣労働など日本語を必要としない特殊な環境で生活をしてきた日系南米人が多いということ。3点目には大規模団地に集住するがゆえに、同国人コミュニティの中で生活が完結してしまい、日本人社会との接点が希薄になりがちという点。さらに4点目として、日本人側は高齢化が進行、一方で外国人世帯は多くが子育てファミリーの共働き家庭でかつ変則勤務のことが多いこと。これは実は外国人問題ではなく、本来は世代間ギャップ問題であることを示している。

 外国人集住団地が生まれる経緯として、郊外の老朽団地で空家率が上昇し、そこに外国人世帯が入居。「保証人不要で家賃が安い団地」ということが口コミで広まり、外国人の応募が急増。その結果、外国人世帯率が上昇すると、外国人が多い団地ということで日本人応募者が減少。母語でコミュニケーションができる同国人コミュニティが形成され、エスニック・ビジネスが成立し、さらに暮らしやすい生活環境が成立していく、という経緯を辿る。まさにそのとおりだ。

 最後にリーマンショック以降の現状として、外国人世帯の二層化・貧困化が進んでいること、高齢者・母子家庭などの福祉世帯が増加し、共生の核となるべき自治会に崩壊の兆しが見えることの2点を挙げ、外国籍住民への支援とともに自治会・居住者への支援が必要であるとまとめられた。

 報告・問題提起の後は、恒例の質疑応答・意見交換。最初に、イギリスのホームレス問題は、移民は移民コミュニティや強い生活意欲等もあってそれほど問題にならず、イギリス人の方が顕著な課題となっているがどうかという質問に対して、確かにそういう面はあり、外国人の側も住みやすい団地を選択している実態があると答えられた。

 愛知県の外国人居住団地と言えば、豊田市の保見団地が有名だが、当日はこの保見団地を対象に修士課程の研究をしている院生の方が参加されており、保見団地の状況を話していただいた。もっぱらNPOによる外国人支援活動についての報告だが、NPOも千差万別で多くは団地内住民が立ち上げて活動しているが、業務委託先に左右される傾向がある。また、外国人自らが率先して活動している事例が多く、日本人が関わっている活動は少ないとのこと。地域コミュニティベースの交流を中心とした日本人学校は人気がなく、就職支援を目的とした実践的な日本人学校が盛況となっている実態があるとのことであり、外国人が生活に必死になっている状況が窺われる。一方で交流パーティも生活支援につながる面があり、それなりに活発だといった内容の報告があった。

 豊橋市の岩田住宅の外国人支援の自治会活動を取材された方の報告もあった。この団地の場合は日本人の自治会長に外人コンプレックスがなく、困っている人は助けてあげようという軽い気持ちで活動を継続しているとのこと。

 稲葉先生からは、日本人自身がカベを作っているという言葉は、外国人支援活動をしている関係者の方からよく聞かれるという話をされた。また、住宅管理の担当者からは、外国人の方が言うこともはっきりしていてわかりやすく付き合いやすいという声をよく聞くとのこと。派遣業者が入居から生活全般全てについて面倒を見ていて、外国人自身は日本語を話す機会もないというケースもある。こういう状況について、外国人はどう思っているのでしょうという質問に対して、「彼らはハッピーに暮らしていると思いますよ」と答えられた。もちろん貧困等の問題は別次元の課題だろうが、同国人コミュニティの中で暮らしていければ、確かにハッピーかもしれない。

 最後に私から、新大久保は今では外国人街としてのアイデンティティを獲得し、大きな問題もないように見えるが、公営・UR団地と比較してどう考えますかと質問したところ、新大久保は日本人の側が外国人なしでは暮らしていけないWinWinの関係になっているが、公営・UR団地ではそうした関係にはまだ至っていないと言われた。また、極論として、外国人専用団地としたらどうでしょうと質問したが、小規模団地ならいざ知らず、公営・URなどの大規模団地では治外法権団地となり、別の問題を発生させると答えられた。なるほど、やはり地道な解決しかないのかもしれない。

 全体を通し、大変活発で楽しい議論ができた。本当の問題は日本人の側にあるというのは、公営住宅の福祉住宅化という現実も含めて興味深い視点であり、もちろん課題は深刻だが、明るくハッピーに考えていければいいなと思った。