サンコート砂田橋とジョイフル砂田橋

 サンコート砂田橋は、愛知県住宅供給公社が昭和30年前後に建設された公社住宅の建替えとして進めてきた事業だが、今年の春にジョイフル砂田橋という住宅・福祉複合施設がオープンし、10年以上かけて進められてきた住宅団地再生プロジェクトがようやく完成した。 Dsc01589

 中層の賃貸住宅が並ぶ住宅団地から、一般賃貸住宅はもちろん、高齢者向け優良賃貸住宅、商業施設、医療施設、さらに福祉施設と様々な機能が集積する地区へと大きく変貌した。ぜひ完成形を関係者の話を聞きつつ見たいと思い、都市住宅学会中部支部公共住宅部会という場を借りて見学会を企画し参加してきた。関係者の皆様、私のわがままを聞いていただき、どうもありがとうございました。

 最初にサンコート砂田橋の集会所に集まり、プロジェクトの全体計画と経緯について伺った。従前の住宅団地「旧・大幸住宅」は、昭和29~33年度に建設された公社住宅18棟486戸の住宅団地だった。専用面積は35~45m2。用途廃止直前の家賃は13,300~23,900円。

Dsc01574 敷地南側の民有地と一体的に建替え、敷地の有効利用を図る大幸地区住宅市街地総合整備事業に取りかかったのが平成6年度。民有地の先行取得を行い、その区画に公社住宅を建設。以降順次、既存住棟を取り壊しつつ、建替えが進められていった。公社住宅については、「安心」「安全」「環境」の3つのテーマを掲げ、単身世帯からファミリー世帯まで多様な間取りの一般公社住宅が227戸、高齢者抜け優良賃貸住宅が130戸の計357戸が建設された。

 環境への配慮として、IBECの環境共生住宅の認定を取得。ビオトープなどが設置されている。地震対策としては免震工法を採用。また、団地内に高齢者等支援施設や子育て支援施設を整備し、NPO法人等に貸与して生活支援機能の導入を図った。

Dsc01591 また、大きな交差点に面する角地部分には、複合商業施設を誘致。事業用定期借地契約により、(㈱)マックスバリュー中部と契約。スーパーマーケット、書店、家電量販店などからなる商業施設が平成18年にオープンした。さらにその隣接地には、平成20年に循環器系の医療施設「名古屋ハートセンター」がオープン。これも同様に事業用定期借地契約により誘致した。これらは総合評価方式による一般公募で決定している。

 そして今回、見学した住宅・福祉複合ゾーンは、事業前の段階で区域の一部が県所有地(県職員住宅跡地)となっていたが、公社が購入。一体として、総合評価方式による一般公募を実施。こちらは52年間の一般定期借地方式により契約している。公募にあたっての条件として、福祉施設に加え、住宅を100戸以上導入することを条件としており、これらを満たす応募2件のうちから、借地料や計画内容を勘案の上、社会福祉法人サンライフに決定した。住宅の導入と戸数を条件としたことについては、住宅市街地総合整備事業による計画を満たす必要があったためとのこと。 Dsc01590

 完成した施設は、1階にリハビリクリニックとデイケアセンター(60人)、2階に小規模多機能型居宅介護施設(25人)と地域密着型特別養護老人ホーム(20床)が入り、3階から上は2棟に分かれる。西棟の2~4階には高齢者向け優良賃貸住宅52戸、5~8階には住宅型有料老人ホーム38戸。東棟の2~6階にはファミリー向け賃貸住宅47戸、7・8階は女性専用ワンルームマンションとなっている。また幹線道路に面する西棟1階には、和食レストラン、カフェ、イタリアンレストランと美容院が入っている。これらの商業施設は、(社福)サンライフがレンタル貸し、また賃貸住宅63戸については仲介・管理を(株)ニッショーに委託している。

 こうした全体概要を伺った後、まず、住宅型有料老人ホームから見学。オープンから半年弱、かなり好評で既に空室は3室のみとなっている。眺望のよい角の空部屋を見学。部屋の広さは77.87m2。家賃は192,000円。他に管理費・共益費40,000円(二人の場合は60,000円)を徴収。かなり高額という気がするが、他の部屋もだいたい家賃15~6万円程度。これで38戸がほぼ完売というのはすごい。地下鉄駅から近いことなど利便性が高く評価されているのだろう。

Dsc01577 室内には、赤外線方式のリズムセンサーやナースコールが設置され、万一の際に相談員等が駆けつけるとともに、ナースも配属されている。各階にはゆとりのあるパブリックスペースが設けられ、ナゴヤドームや矢田川が一望できる眺望が確保されている。また、1階のレストランは1割引で利用でき、満員の場合も優先利用できる他、お月見等のイベント企画も行われている。

 入居者は65~100歳までで女性単身者が多い。7・8割は従前名古屋市内居住。北海道からの転居者もいるが、市内に住む子供世帯を頼っての入居が多いとのこと。ちなみに、介護が必要になった入居者に対する施設内の福祉サービスの優先的な提供や転居は、定員等の関係で困難なこともあるが、相談員がサンライフの関係施設等と連絡を取り合い、適切な対応をするつもりとのことだった。

Dsc01582 続いて階下の高齢者向け優良賃貸住宅に向かう。こちらは名古屋市の家賃補助があり、契約家賃100,100~155,800円から最大42,800円まで減額される。間取りは1K又は1LDKで広くはないが、リズムセンサー、ナースコールに加え、生活相談員が配備されている。こちらも光庭に面してソファが設置され、当日も各階でおばあさん同士で談笑する姿が見られた。今はまだ自立した元気な方ばかりだが、将来に備え、配食用のエレベータや生活支援準備室が配置されている。

 2階は地域密着型特別養護老人ホームと小規模多機能型居宅介護施設である。前者は10人のユニットが2つ。浴室をはさんで配置されており、当日は3名ほどの利用者が共同生活室で寛いでおられた。確か全て満室と言っていたような気がする。小規模多機能型居宅介護施設は定員25名。デイルームを囲んで浴室や宿泊室が並んでいる。現在契約者20名のうち、16名が上階の老人ホーム・高優賃の入居者だと言う。

 1階のリハビリクリニック(内科・整形外科・リハビリ科)は休診中で、デイケアセンターだけを見学。デイケアは要介護者のうち、リハビリを要し、ホームヘルパー等は不要な方を対象にする施設で、ここでは定員60人を確保。現在30名で運営しており、理学療法士3名を配備している。

Dsc01594 残念ながら賃貸住宅等は見学できなかったが、募集後すぐに満室となり、既に退去・入居などの回転もあると言う。一般住宅は専用面積56.8~70.84m2の2LDKで家賃10.9~12.5万円。女性専用ワンルームマンションは専用面積26.89~30.8m2の1Kで家賃5.6~6.1万円。ちなみに住戸は必ずしも南面していない。東向きや西向き住戸もあるが、立地を考えれば需要は十分あるようだ。

 ジョイフル砂田橋を見学後、街区をぐるっと一回りした。複合商業施設のマックスバリューはよく賑わっている。今は24時間営業としているが、周辺対策として、開業直後は20時までとし、3ヶ月毎に次第に営業時間を延ばすとともに、駐車場出入口の改善等を行ったそうだ。循環器系医療機関「名古屋ハートセンター」もよく賑わっているということだが、当日は既に営業時間外で利用状況等は確認できなかった。

Dsc01599 サンコート砂田橋ビオトープは手入れが行き届いているとは言い難い。菜園も利用されている区画もあり、雑草が生い茂っている区画もある。立体駐車場等に設置された壁面緑化も、ツタがかなり伸びているところもあるが、ほとんど生長していない場所もある。生活支援施設や管理事務所の屋上緑化はコケ類・ハーブ類ともよく繁茂している。

 全体見学が終わった後で、改めて質疑応答と意見交換を行ったが、特に批判的な意見などはなかった。事業着手当初からすべての用途や利用方法を決めていたわけではなく、段階的に土地利用を検討し、民有地や県有地の買収、総合評価方式による一般公募や事業用定期借地契約などを行ってきている。こうした方法も含めて、トラブルなく、地域に貢献する住宅団地再生が可能となった。名古屋圏の住宅プロジェクトはなかなか首都圏の研究者等の目には留まらないことが多いが、実質的に意味のある再生事例ではないかと思う。

Dsc01602 ■参考 「住まいづくり・あれこれ●環境共生住宅 サンコート砂田橋」