人口減少時代における土地利用計画

 序章、終章を除き、全部で25編の論文が収録されている。執筆者は共著者も含めて21名。そのうちの一人から格安で譲っていただいた。が、B5サイズ2段組に細かい活字でびっしりと専門的内容が詰まった本を読み進めていくのはしんどい。長い間机の上に放ってあり、ようやく意を決して表紙を開け、何度も中断し、多くは読み飛ばしつつ、ようやく最後のページにまで至った。よって、興味のない章は目を通しただけでほとんど頭に残っていない。いやほとんどのページかもしれない。

 全体は3部構成になっている。「持続可能な都市の形態と周辺部の課題」と題する第1部(全10章)では、コンパクトシティの理念や景観計画、郊外住宅地や農地の保存・利活用・管理の問題など、網羅的な視点から都市周辺部の課題が述べられている。

 続く第2部は「都市周辺部の土地利用計画制度の現状と課題」と題し、適宜、具体的な地区事例も踏まえつつ、都市計画区域外や市街化調整区域等における土地利用規制と誘導方策について分析がされている。

 第3部は具体的な事例紹介である。コンパクトシティ政策で名高い青森市、富山市を筆頭に、札幌、兵庫県、金沢、四日市など全部で8地域の土地利用コントロールの施策と実施状況等が、一部、自治体担当職員によるものも含めて紹介されている。

 「おわりに」に「規制緩和を薦める事例集ではないのか、と印象をもたれたかもしれない」と書かれている。必ずしもそうは思わないが、一方で札幌市の星氏が書く以下の文章も記憶に残る。

●人口減少期における「都市の縮退」がしばしば話題になるが、それが市街地の縮小あるいは非市街化を意図する概念であるとするなら、都市計画行政においては、およそ現実的ではないし目指すべきものでもない。そこで生活する市民がいる以上、住み続けられるよう生活の不便を少しでも軽減することに行政と市民が共に知恵を絞ることが重要であると考える。(P143)

 すなわち、本書は我が国の欧米諸国に比べ著しく緩い土地利用法制を前に、依然進む都市の拡散圧力と理想的な都市構造の狭間で何とか最善の土地利用実態を実現しようとする呻吟の書物である。実際にその現場で悩んでいる行政職員が多くいるはずで、本書はそうした職員に向けた応援ときっかけを提供する参考書でもある。

 「都市周辺部の持続可能性」というテーマは難しい。星氏が言うように、都市周辺部に生活し、また利害関係を持つ立場からすれば、総論や現実は理解しても、個人的に理解することは難しい。押しつけるべきものでもないし、個人的利害の主張を総論で抑え込むべきでもない。全員が納得できる解決が求められる。

 本書がそれに向けてどれだけ前進しているかは定かでない。しかし課題を明らかにすることには意味があるだろう。第3部は、それに向けた模索の数々だが、これが決定打というものはない。大きな社会変化の中で、土地利用計画制度自体も大きく揺さぶられる可能性もある。現状の変化と試みと結果を冷静に認め検証していくことしかないのだろう。貴重な研究が集められた論文集である。

●地域環境の利用管理を含む計画は地区単位で、住民の参加を得て策定されなければならない。神戸市条例や伊賀町条例では、このような住民合意の計画を前提に、行政は住民や土地所有者に計画に適合する土地の利用と管理を求め、さらに計画を実現するための事業への協力を要請する仕組みが盛り込まれている。(P58)

●「定住性」を高める取り組みにより持続可能となり得る郊外住宅地は大量に存在すると考えられる。しかし、財政支出を伴う行政支援については、選択と集中の観点から、取り組みの実効性が見込まれる住宅地から優先的に実施することが必要となろう。その場合の「実効性」は、持続可能な住宅地という共通の目標に向け、地域住民が一体となって「定住性」を高めていこうという意識が共有化されているコミュニティであるかどうかにかかっている。(P61)

つくば市では都市計画マスタープランの策定を終えようとする200410月から開発許可条例の制定など、地域に応じた立地基準を定める調査検討が始まった。・・・そして・・・、各エリアのそれぞれの将来像に応じて、地方自治体が、許可しうる開発行為の内容を定めた立地基準(都市計画法34条)を、(a)開発許可条例に制定する、(b)地区計画を都市計画決定する、あるいは(c)開発審査会に付議する基準に設定する、といったように分類した。その上で、・・・立地基準の具体詳細を決めていった。(P85)