建築士2010年8月号から 「斜面住宅」と「建築士試験」

 先に、愛知建築士会の会報から目に止まった記事を引用したので、今度は日本建築士会連合会の会報「建築士」から。目に止まったのは2つ。一つは巻頭のOPINIONから鮫島和夫先生の「高層住宅VS斜面住宅 どちらが安全安心?!」。もう一つは速水清孝氏の連載講座「還暦を迎える建築士法」の「第10回:誰を建築士とするか」。

 前者は、タイトルのとおり、高層住宅と斜面地住宅でどちらが安全・安心かと問うものだが、答えは「長崎住まい・まちづくりトラスト」代表という筆者の肩書きから想像できるように、「斜面地住宅の方が安全・安心」というもの。

 「え!何で?」と思うが、筆者がグラバー園の直上に住み、グラバー園の斜面エレベーターを利用して行き来をしているという下りを読めば、なるほど。斜面住宅を、高層住宅を横に倒して各住戸を接地したものと考えれば、利便性は変わらず、安全性のみが向上していると言う。

●ウォークアップ可能な標高40mに一本のクルマ道、水平方向400mに1ヶ所のコミュニティ・エレベーター、あとは現在のヒューマンスケールの横道と坂段を改良してネットワークを組めば、長崎の斜面住宅地は「自然環境と眺望付きの快適な設置型集合住宅」の集合に生まれ変わる。(P02)

 課題はコミュニティ・エレベーターの設置と運営の経費だろうか。高層住宅のエレベーターが住宅の建設費に含まれ、住宅管理費に含まれていることを思うと、斜面住宅のエレベーターも町内会で負担しなければいけない。でもそれは、新開発の斜面住宅地でなければ、かなり難しいかも。グラバー園の斜面エレベーターを設置した長崎市ならではの政策かもしれない。

 もう一つの注目記事「還暦を迎える建築士法」では、最初の一級建築士試験問題の最後の1問が掲載されている。あなたはどれが正解だと思いますか?

問:「あなたが或る一級建築士事務所の管理者であつたとする。もし或る人が或る建築物の設計を依頼してきたときに、それがあなたの事務所の技術的能力からみて到底出来そうもないものであつたならば、あなたは次のうちのどの処置をとるか」

1.あなたの知っている他の有能な建築士を紹介する。

2.引受けた後知り合いの有能な建築士にやってもらう。

3.引受けて設計をまとめあげた後、他の有能な建築士にやってもらう。

4.不明な点は建築主事に相談し、建築基準法に完全に適合するように注意して設計する。

5.責任をもって引受け、大いに勉強して完遂に努力する。

 私なら・・・1.を選択しますが、正解は何でしょう。あれ、正解が載ってないんですけど・・・。CPD研修だからですか?そんな。

 ちなみに巻頭の見開きページ「四季住景」で紹介されている「栗山の角寄せ倉」も興味深い。一見、角材柱が接して並べられて壁になっている造りの倉の写真。実は柱は4本に1本で、間の3本は半柱だそうだが、それにしてもびっしりと柱が並んでいる。しかも柱材はクリ。よっぽど貴重なものが収納されていたのだろう。日光山地の山里、栗山村ならではの倉造りだそうだ。

 普段はほとんどパラッと見ては捨てている「建築士」だが、じっくり読むとそれなりに面白い記事も載っている。8月号は特に面白かった。