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シルバーピアという仕組み

 東京都営住宅のシルバーピアを見学してきた。そもそも見学に行くまでシルバーピアとは何かがわかっていなかった。シルバーハウジングに関する調査研究の一環として行ったもので、シルバーハウジングとは、生活援助員(ライフサポートアドバイザー=LSA)による見守り・安否確認等の福祉サービスが付いた住宅のこと。東京都はLSAを住み込みとしているとは聞いていたが、この住み込みの生活協力員(「生活援助員」と微妙に異なる)のことを東京都ではワーデンと呼ぶ。ワーデンがいる高齢者向け住宅のことを、東京都ではシルバーピアと呼んでいる。 6589

 今回見学してわかったことは、シルバーピアはシルバーハウジングに先駆けて東京都が取り組んだ高齢者向け住宅であるということ。今回は港区の港南四丁目第3アパートを訪問したが、港区ではシルバーハウジング以前に、区が独自で取り組んだシルバーピア(高齢者住宅)が4住宅あり、その後、都営住宅の建替に併せて、都がワーデン住戸と団らん室を設置することとなり、それ以降は都営住宅内でシルバーピアを整備している(他にUR住宅が1棟)。

 他の道府県では、住み込み型はほとんどなく、通勤型、訪問型が主となっている。通勤型は住宅内の事務室に駐在して福祉サービスを行うもの。訪問型はデイサービス等に駐在し、福祉サービスを訪問して行うものを言う。

 介護保険制度導入とその後の制度改正により、生活援助員派遣事業は地域支援事業の中で、他の地域見守り事業(配食サービス等)や福祉用具・住宅改修支援事業等と一括して介護給付費の2%を上限に国から助成を受ける仕組みとなった。このため、他の事業需要も大きいことから、生活援助員派遣事業に対する市町村福祉部局の予算計上は年々厳しくなってきていると聞いている。

 こうした状況を踏まえ、今後のシルバーハウジングのあり方を考えたいというのが今回の調査目的の一つだが、シルバーピアにおける福祉サービスというのは私がこれまで理解していたシルバーハウジングのそれとは違う次元のものだった。

 見学後に話し合った見学者の一人は、「東京都は急増する高齢者に対して高齢者住宅を供給することが第一の目的であり、高齢者ばかりの住宅に若いワーデンが住み込み、見守りをすることを理想とした」という意見があった。シルバーハウジングは、ワーデンが果たしている言葉にできない多くの役割の中で、明示できる個別のサービスだけを抜き出し、サービス提供者としての生活援助員を配置している。こうした「人が先か、サービスが先か」という視点は、この種の高齢者住宅にとって決定的な違いを生んでいると思われる。

6597 そう、ワーデンは極論すれば何もしていない。「良き隣人」である。年に4回の書類の手渡しと1回の機器点検を除いては、義務的に入居者と会う必要性はない。しかし彼女らは入居者全員(この住宅の場合は50名)の顔を覚えており、団らん室に常駐して窓から見える入居者の姿を確認し、様子がおかしければ訪問して必要な世話を焼く。日頃から包括支援センターとは連絡を取り、介護状況等を熟知するが、いらぬお節介はしない。

 各住戸には押しボタン式の緊急通報システムとリズムセンサーによる安否確認システムが整備されており、日中は団らん室に連絡が入り、ワーデンが駆けつける。夜間は原則として警備保障会社で対応するが、この住宅の場合は午後10時から朝の6時まではワーデン宅に連絡が入るようにしているそうで、「良き隣人」として十分以上の役割を果たしている。

 団らん室は、シルバーピア入居者であればいつでも利用可能で、ほとんど毎日、麻雀や趣味の教室などに利用されている。入居者がメンバーに一人でもいればOKで、一般住戸に住む高齢者も一緒に利用している。ワーデンから特にイベントを仕掛けることはない。

 ここも他県のシルバーハウジングと違うところで、神戸市などコレクティブ住宅ではかなり積極的に定期的なイベントを実施しているそうだが、その他ではイベント参加者が少なく次第に行われなくなり、団らん室があまり使われていない例も多い。

 東京都以外の一般的なシルバーハウジングでは、生活援助員の業務は福祉サービスの提供と捉えられており、その業務内容と量が定められている。ところがその入居者は自立生活のできる高齢者を前提としているため、頻繁な安否確認を拒否する高齢者や、逆に過剰な家事サービスを要求する高齢者などがいて、設定している福祉サービスとの間に齟齬を来たすことが間々見られる。また生活援助員自身がその齟齬に耐えきれずやめていく人も多いと聞く。

 シルバーピアの場合は「良き隣人」として一緒に生活していることが求められている。業務内容は決められているが、その頻度や量は定めていない。この結果、入居者の福祉サービス要求との狭間で悩むワーデンはいるとのことだが、過剰なサービスを入居者に強要することによるトラブルはない。安否確認は必要に応じて行われ、定期的に行うことはない。人間関係として自然である。

 ただし、住み込みのワーデンの確保は大変なようである。都では住み込み型以外も認めるよう要綱の改訂をしており、今後は通勤型のシルバーピアも増えてくるのかもしれない。しかしその時、シルバーピアの良さはどうなるだろうか。日中だけでも常駐していれば十分機能は果たすのか。これだけの人件費(委託費)を確保できることがそもそも東京都内でしかできないのかもしれないが・・・。