日本と欧州における社会住宅のストック・フローの差から考える持家政策を見直すべき理由

 住宅供給は社会主義国でもない限り、原則として民間が経済活動として行うものだと思ってきた。しかし、「民間非営利組織による住宅事情」について研究報告をされた海老塚良吉氏の論文「英米独仏における社会住宅の供給組織の動向:1998年度都市住宅学会」(かなり古いですが)によれば、アメリカを除けば、社会住宅の全住宅に占める割合は、ストックで8~23%、フローで17~26%を占めると言う。

 社会住宅をどう定義するかにもよるが、公的な資金援助の入った賃貸住宅と考えれば、日本で言えば公営住宅やUR賃貸住宅などの公共住宅と公的融資を受けた賃貸住宅が相当すると思われる。フローについてH20年度の住宅着工統計の資金別内訳を見ると、公的資金住宅が約1割である。ストックについては、H20年の住宅土地統計調査で、公営・UR等を合計した住宅数が約6%となっている。

 ただし公的融資住宅数は、住宅金融公庫が機構に組織再編され、業務内容が直接融資からフラット35に移行して以降、大幅に減少したが、それ以前は持家住宅の建設の1/2近くは公庫融資を利用していた。また現在においても、フラット35には公的資金が投入されているし、減税措置も広い意味で公的資金が投入されていると見ることができる。

 こうした状況を平山先生などは持家政策として批判しているが、インフレ状況下では持家取得は住生活の安定につながるので、過去には成り立つ政策であったのだろう。

 日銀等のデフレ宣言はショッキングな事態として報道されたが、デフレ自体は経済的には必ずしも困る状況ではないという意見もあるようだ。人口減少時代を迎え、今後、経済は穏やかなデフレ基調になると見られる。

 しかしこのことを住宅政策として見れば、デフレ状況下では、無理して住宅を取得したものの結局は債務返済不能に陥る世帯が従来以上に発生すると考えられる。また、これまではインフラ効果で投入費用以上の効果を持った持家政策が従来のようには効かなくなると思われる。

 日本と欧州の社会住宅の割合の差は、こうした経済成長の違いを反映していると言えるのではないか。人口・経済が安定的に推移してきた欧州で、社会住宅を中心とした政策が取られてきたことは、日本の住宅政策の今後の方向を示しているのかもしれない。債務返済不能世帯が最終的には賃貸住宅居住になると考えれば、賃貸住宅施策を中心に施策構築を図るというのは当然の方向と考えられる。