地方分権とナショナル・ミニマム

 地方分権改革推進委員会公営住宅の入居基準を地方で独自に定めることができるよう改正するよう勧告を出した。当初、単身者入居も認める方向で報道されていたが、最近は収入基準も地方で定める方向の議論が出ているようだ。

 先日の都市住宅学会のワークショップでも、ナショナル・ミニマムとリージョナル・ミニマムが話題となったが、国が収入基準を緩和し地方に委ねるということは、低所得の住宅困窮者の救済については、国交省としては手を引く、施策対象としない、ナショナル・ミニマムとは考えない、ということなのだろうか。

 もちろん公営住宅としてはということで、国としては生活保護制度の住宅扶助として低所得の住宅困窮者対策は継続するだろうし、生活保護世帯だけでなく、現在の公営住宅入居資格のある低所得者に対しても、別途、家賃補助制度を創設する考えなのかもしれない。

 公営住宅の収入制限を撤廃し一般住宅化すれば、現在、公営住宅において深刻になりつつある高齢化やコミュニティの衰退等の問題は解決の方向に向かうはずで、先日のワークショップでも「公営住宅の社会住宅化」は、欧米でも取り組まれている望ましい住宅政策として評価する声が多かった。しかし、当然、家賃補助制度の導入とセットの話である。

 どういう形で公営住宅の一般住宅化と家賃補助制度の導入を円滑に移入・移行していくかは大きな問題であり、いまだに具体的な提案を聞いたことがない。韓国は来年度から一部住宅バウチャー制度を導入するようだが、あまりの少額ゆえに批判も少なくないようだ。韓国の経験が参考になるだろうか。

 移行モデルの提案もなく、収入基準を地方委任してしまうのは、あまりに国として無責任な感が否めない。定住対策として公営住宅を建設できるようにしてほしいという要望がある、という話もあるが、それは地域優良賃貸住宅の直接建設型として建設すればいいし、既存の公営空き家の地優賃への転用も可能だ。

 地方分権改革推進委員会勧告を契機に、一般住宅化をめざしたいというのはわからないではないが、例えば家賃補助制度を地域住宅交付金の基幹事業とするなどの制度改正と同時に進めるなど、住宅施策全体をにらんだ政策の一環として進めるべきではないか。正直、賛同半分、危惧半分のアンビバレントな気持ちだ。