豊川稲荷門前のまちづくり

4669 豊川稲荷門前のまちづくりについては、『あいちまちづくりシンポジウム「地域が担うまちづくり・まちおこし」』で、豊橋技術科学大学の松島先生と「(株)豊川まちづくり そわか」の鈴木代表取締役から話を聞いた。その時に「何やら元気な取組みが豊川で行われている。一度見に行かなくては!」と思ったが、建築学会東海支部都市計画委員会恒例の春の交流会が豊川で開かれるというので、喜んで参加した。

 当日は豊川稲荷寺宝堂にて、豊川市建設部次長兼まちづくり推進課長の荘田さんから、「豊川稲荷表参道地区の都市計画の見直しについて」と題して、これまでの経緯と現在の活発な地域活動の状況について報告があり、ついで豊橋技術科学大学の松島准教授から「豊川稲荷門前の景観整備事業について」研究室の活動を中心に話を伺い、その後、まち歩きを楽しんだ。

4693_2 東海道の脇道・姫街道と伊奈街道の交差部に位置する豊川市は、1441年室町時代前期に開創された豊川稲荷を中心に発展し、戦前には海軍工廠もできて旧街道が拡幅整備されてきた。都市計画法制定に伴い、駅北側から豊川稲荷門前に至る表参道も現道幅員6mのところ12mに都市計画決定された。しかし整備は進まず、時代の変化に伴う商業環境の変化から、昭和55年には商業近代化計画が策定され、表参道も観光客を対象にした商店街振興を目指し、電線地中化と景観整備が提案された。しかし都市計画に基づく道路拡幅については、30年近く権利制限をしてきたことから、住民ワークショップにおいても、計画どおり拡幅すべきという意見と、現道のままにすべきという意見の両論が出され、まとまる気配がなかった。

 こうした状況に、二代目の若手経営者の中から、「ハード整備をすれば本当に経営状態はよくなるのか? 商業意欲の高揚の方が大事じゃないのか。」という意見が出て、「まずは自分たちでできることから始めよう」とソフト先行のまちづくりがスタートした。

4701 そこで行われたのが「元気軒下戸板市」。ただでさえ狭い路上に戸板を並べ、さらに人密度を上げてにぎやかさを演出。これが受けて、平成15年から毎月1回「いなり楽市」を開催するようになる。大道芸にフリーマーケット、そしてチンドン屋に市民主体のダンスやブラスバンド。市からの補助金は拒否し、イベント業者に委託することなく、すべて商店街店主たちの手作りで実施。年々盛大になり、今では2万人近くの人でにぎわう。そのためのミーティングも毎週木曜日に開催。毎回深夜まで語り明かし飲み明かしているという。

 都市計画道路の方はさまざま検討した結果、平成19年についに計画廃止。地区計画を制定し、地区施設道路として位置づけ、風格のあるまちなみ形成を進めることとしている。このため、住民主導で景観整備基準も制定。平成18・19年と松島研究室の下に社会実験を行った結果、平成20年度から景観補助を始めている。

 以上が荘田氏の話。続いて、松島先生から。 4713

 平成18年度から実施した社会実験は、18年度はカバン屋、19年度は酒屋を対象に、研究室の学生たちにより、実測、住民投票による外観決定、そして工事を行い、さらに売上高や視線調査などを行い、結果の評価をしている。また店主参加のワークショップも開催し、景観整備ガイドラインの作成や補助制度の大要(補助率1/2、補助上限200万円=>実際には150万円で決定)を決めている。  外観デザインは昭和レトロ。市内に住む琺瑯看板コレクターの協力も得て、レトロまちかど博物館をテーマに景観整備を進めている。また、まちづくり会社そわかの拠点「いっぷく亭」内にサテライト・ラボを開設し、地域に入ってのさまざまな活動や研究を続けている。

 「専門家の役割をどう考えるか」という質問に対して、「住民だけの時は景観整備までは進まなかった。専門家として実例を示すことで、次の一歩に踏み出せたのではないか。」と語っていたが、それはそのとおりだろう。しかし、社会実験で整備した店舗が必ずしもよい景観とは言えない。

4717 復元をするのではなく、レトロに整備している。すなわちニセモノを造っているのであり、表層のみの仕事だ。「外観からは瓦葺きに見える」ということを改修の工夫点として紹介していたが、「それでいいのか」と若干疑問。「昭和レトロ」をキーワードに、住民や来客の好感度を指標にした景観整備を進めるとすれば、今後も時代や意識の変化に対応し、常にフレキシブルに改修していくことが求められる。そうした姿勢が景観ガイドラインにどう表れているかと質問したが、「最終的には住民協議会で承認されればOKという柔軟な内容にしている」という答え。

 景観の善し悪しは結局は住民意識に拠ると思えば間違ってはいないが、今ひとつ十分には議論し考えられていない印象。松島先生がよいと言えばよい、ダメと言えばダメといった、専門家まかせになっていないだろうか。6月には映画監督の想田氏を迎え、景観ワークショップを計画しているそうだ。結局、松島先生はデザイナーであり、運動家なのだとナットク。稲荷門前に続いてもう一つの商業中心地区・諏訪地区の整備構想にも関わろうとしているそうだが、すべて松島先生に丸投げでほんとうに大丈夫か?=>豊川市

4721 この後、まち歩きに出る。豊川市まちづくり推進課の山本主査の軽妙な案内の下、豊川稲荷(正式には豊川閣妙厳寺)の見所、総門の小さな表札、本尊である千手観音を祀る妙厳寺本堂と守護神であるダキニ真天を祀る稲荷本殿、奥の院、100体はあるという霊狐塚などをめぐる。

 続いて門前表参道に出て、平成18年度社会実験のカバン屋・キング堂、20年度に改修したせんべい屋・手焼堂、シャッターをペイントしたHIKOSAKA邸、19年度社会実験の富岡屋酒店、そしていっぷく堂などを見て回る。それらは画像のとおり。 4723

 続いて、ひとりで豊川駅や閑散とした歯抜け商店街の駅前通り、地区内の狭く魅力的な路地などを見て回る。最後に、5時半から懇親会。初代おかみさんの会・会長を務めた和食処松屋のおかみの口上を聞きつつ、おいしいお酒を飲む(ちなみに私はほとんど下戸なので、大して飲めない)。地元商店主たちの意識と取組みが商店街再生には一番の特効薬であり最も重要なものだと改めて痛感。若手商店主たちの活動が今の活況を生んだし、今後もそれがすべてのベースである。それをうまくサポートするのが専門家の役割だと思う。次は「いなり楽市」の日に来てみよう。

4719 【参考】

豊川市の中心市街地(2000.6.29)/中心市街地すまい研究会

●マイフォト「豊川稲荷門前のまちづくり」もごらんください。