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建築史に何ができるか

 全国で町並み保存の活動が次第に活発になってきている。私自身が多少なりとも関わってきたまちもある。しかし多くの場合、そうした活動に関わっている先生は、都市計画系の先生や社会学の先生だったりする。東大の西村先生しかり、名市大の瀬口先生しかり。古い建築物の調査に専門的に携わっている建築史の先生がまちづくり活動に積極的に関わっているという話をこれまであまり聞いてこなかった。

 西先生のことは最近その名前を聞くようになった。この本を手に取ってみたら、先日見学した鵜沼宿の調査も手掛けられている。ぜひ行きたいと考えていた松代に町づくり研究所を開設したという。是非読みたいと本書を手に取った。

 全体は4部構成。「町並み調査と町づくり」と題する第1部では、平戸、江津、松代、壱岐勝本、鵜沼宿、長井(山形県)での経験を紹介している。第2部の「蘇った建物」では、足利学校、旧染井能舞台(横浜市)、三渓園旧原邸、佐賀城本丸御殿、出島オランダ商館の実例を紹介する。第3部「文化を守り、町をつくる」、第4部「建築史に何ができるか」は前出の事例を踏まえた考察だ。それらはいずれも基本的に既出の雑誌等からの抜粋である。しかし単に掲載されているだけでなく、その当時の意図や意味が添えられている。それも、調査報告書のような学術的なものもあれば、講演会記録、座談会、ポエム形式のものまである。きわめて多様で面白い。かつ文章が平易で読みやすい。訴えたいことがストレートに伝わってくる。とてもいい本だと思う。

 筆者が訴えたいこと。その一つは、「私たちが大切にしたいと感じたら、それが文化財ですよ」ということ。そして、「町並み調査は町に返しましょう」ということだ。とてもシンプルだが大切なこと。それを実践している西氏の姿勢に感服する。建築史にできること。それは建築することの心を知り、謙虚になることかもしれない。先生の心が伝わってくる良書である。

●町並みを整備するにはどうしたらよいだろうか。・・・歴史的な背景をきちんと認識し、平戸の町並みの歴史的特色を正確に把握した上で、それを生かして整備すること、これしかない。そのためには、平戸の町並みの歴史をよく知らねばならない。町並みを構成してきた建物はどのようなものであったのか、これを知らねばならない。町並み調査は、そのために実施されるのである。(P022)
●どんな重要な建物も「指定されるまでは指定されていない」のだ。かといって、指定された途端に価値が出るわけではもちろんない。つまり、指定だけが価値判断の基準ではないのだ。自分たちが大切だと思うもの、それこそが文化財である。私はそれを庶民文化財と呼んでいる。(P036)
●一番大事なのは、町の方たちにとって住みやすいこと、これを基本に据えないとうまくいかない。・・・まずどんな場合でも、町民が主体です。(P038)
●建築とは何か、よい建築とは何か、これを考えるために歴史を勉強する。(P124)
●あなたが町を、水辺を、緑の森を、あるいは社寺などの歴史的建造物を見て「素晴らしいな」と感じたら、それはすべて優れた景観であり、あなたはそれを所有し、保全する仲間の一人にすでになっている。横浜をよりよくしていくデザイナーの一人になっている。(P198)
●研究者は、調査は自分の研究のためにやると思っている人が多い。そういう人が得てして結果を地元に還元すべきだ、などと言う。ほんとうはそうではない。地元のためにやる。地元と一緒に、地元と力を合わせてやる。わかったことはすぐ地元に報告する。成果は自動的に地元のものになる。(P218)