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地域と大学の連携まちづくり

 (社)都市住宅学会中部支部の講演会に行く。講師は名古屋大学の小松先生。演題は「地域と大学の連携まちづくり~住環境の創生・再生事例を中心に」。先生も執筆者の一人として参加し、最近発行された「地域と大学の共創造まちづくり」からの紹介が主な内容だが、先生は各論の中の一項目とともに、「1章 本書のねらいと事例の位置づけ」も担当しているから、総括的に俯瞰していると思われる。

 パリのプチ・ボンに代表される「場」としての大学、ボローニャのボルティッチに見られる「部屋」からなる大学、ケンブリッジ大学などで見られるクワッド・ラングル(建物と中庭)と呼ばれる「建物」からなる大学、そしてアメリカで発達したピューリタンの理想郷を形にした「領域=キャンパス」としての大学と、世界各地の大学施設の形を発展過程とともに紹介した上で、タウン(まち)とガウン(大学=博士の着るガウンに寄せて)がいかに連携していくかを、研究のテーマとして掲げられた。

 まず、アメリカ・フィアデルフィアのペンシルバニア大学における事例が紹介された。フィアデルフィアの都心部から川を挟んで西側の、かつては工業地帯、その後は移民街として衰退した地区に、都心部から移転したペンシルバニア大学では、1994年の殺人事件の発生以降、地域と連携した環境改善事業が進められている。具体的には、従来、通勤通学型大学であったものを、関係者が大学周辺に住むよう、住環境改善や住宅供給、融資等を進めるとともに、公立学校への大学協力や地域経済への支援等、地域と一体となった取り組みが進められている。

 日本ではこのような居住まで含めた大学キャンパス計画の事例は少ないが、近年では柏の葉アーバンデザインセンターや酒田市東北公益文科大学などで、新しい大学を取り込んだまちづくりが進められている。特に、柏の葉アーバンデザインセンターでは、開発事業者である三井不動産のブランディング戦略に乗って、千葉県・柏市・東京大学筑波大学が運営部分でうまく協調し合い進められているとのこと。

 私が興味を持つのは、こうした大きな取り組みではなく、小さくは教員個人と建物所有者との1対1の関係による「まちなか研究室」のような取り組みから、大学サイドは、研究室<学科<学部<大学というヒエラルキー、まちサイドは、地域住民やグループ・商店街<地区<行政というヒエラルキーの中で、相互がどのように連携しているのか、その連携事例や組織内での調整事例、連携形態の評価などを知りたいと思ったが、これについてはこれからの研究課題と言われてしまった。

 そもそもこの講演会に参加しようと思ったのは、テーマよりも講師に惹かれたから。より正確には、小松先生がどんな研究をしているのか興味があった、ということなので、その点では大いに収穫のあった講演会ではあった。

 大学からの視点だけでは当然地域との有機的な連携は図れないわけで、かと言って地域からの視点では、相手は大学だけではなく企業、商店街、工場、ディベロッパー等々多くの対象が考えられる。そう考えると、「地域と大学の連携まちづくり」のプロトタイプを創るというより、多くの事例とその評価・考察を提示する以外に、よい事例を創出していく方法はないのかなと思う。申し訳ないが、多分当面、本書を読むことはないだろうが、こうした仕事に巡り会えれば、また楽しいかもしれない。課題と可能性はいろいろあるということがわかった。